「それと、待っててくれてありがとう。疲れたでしょ?家で暖かいお茶入れるから、飲んで行ってよ」
「では、お言葉に甘えてお邪魔しますね」
お礼を伝えてからお茶を誘えば、ゴーシュはあっさりと了承してくれた。とびきり美味しいお茶を入れるのは無理だけど、愛情たっぷり入れたお茶なら私でも大丈夫。よし、がんばるぞ。
「うん!それじゃあ早く行こうよ」
そして、私とゴーシュは並んで歩き出した。話すのは専ら私で、ゴーシュは相槌を打ちながら聞いてくれる。ほら、今だって。
「それでね、今日の配達先の男の子がすっごく可愛かったんだよ。ぶっきらぼうなんだけど、テガミを受け取った時のはにかんだ顔。可愛くて可愛くて、ついぎゅーっとしてお持ち帰りしたくなっちゃった」
「そのまま連れ帰ったら誘拐犯で、れっきとした犯罪ですよ?」
「分かってるよ。私、そんな事しないもん。とにかく、それぐらいその子が可愛かったの!」
「はいはい。よく分かりましたから」
「あの子、名前は確かザジだったかな?うん、思い出した。もう一度ザジの所へ配達に行きたいなー。そして、あのはにかんだ顔がまた見たい」
好きな人とのお喋りは楽しい。いつも歩く道も、隣にゴーシュがいるだけで輝いて見える。不思議だね。
「はい、お待たせ。お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「ロダとレイラにはミルクね」
我が家に帰って、ゴーシュにお茶を入れた。ロダとレイラにも、ミルクをあげる。そして彼を見ると、カップに口を付ける所だった。美味しいと思ってもらえるかどうか、緊張する一瞬。
「美味しいですよ、リーシャ」
カップから顔を離して、ゴーシュは嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔を見て、ほっとする。いくら愛情たっぷり入れたって、彼の口に合わなきゃ意味がない。
「よかったー。あ、何かお茶請けいる?クッキーならあるけど」
「遠慮しておきます。帰ったら、シルベットと夕食ですから」
お茶請けにと思ってクッキーを勧めてみたけど、あっさり断られた。確かに、夕ご飯前に間食したら、美味しく食べられなくなっちゃうね。
「時間、大丈夫なの?」
「お茶を飲んだので、もう帰りますね。御馳走様でした」
心配になって訊いてみると、もう帰ってしまうみたいで残念。でも、妹さんが待ってるものね。それに、今日はゴーシュが私を気にかけてくれている事が分かっただけでも満足しなくちゃ。ただの同僚よりは彼に近いに決まってる。
「ここまででいいですよ」
家の外に出てお見送りしようと思ったら、玄関の所でゴーシュからのストップがかかった。むぅー、しょうがない。ここでお見送りするか。
「気を付けて帰ってね。それにしても、何だかこうしてると、出勤する旦那様とお見送りしてる奥様みたいだね。さしずめ、新婚さんな感じで」
残念に思った私は、爆弾発言をしてみた。いつか来て欲しい未来をさらりと口にする。
「なっ!?何言ってるんですか!?」
そしたら、ゴーシュは顔を赤くして動揺していた。その姿を見て、可愛いなーと思う。というか、反則だよ。
「顔、赤いよ?」
「知りません!」
それを指摘すると、さっさと出て行ってしまった。少しからかい過ぎたかな?と思わなくもないけど、まあいいかと結論づける。だって、赤くなったって事は少しは意識してくれたって事だもの。嬉しくて夜も眠れなかったのは、私だけの秘密だ。
余談だけど、今日配達に行って出会った少年が数年以上経って私と同じテガミバチになるとは、この時の私に考えつくはずもなかった。
友達以上恋人未満
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実は、ヒロインは小さいザジに出会っていたという設定です。後にザジとの再会話も予定しています。
きっとザジは小さい時からぶっきらぼうで、でもはにかむと可愛いに違いないでしょうね。
2010.08.04 up