目が覚めて見えたのは、いつものユウサリの空。ヨダカ地方の満点の星空と違い、人工太陽に近い分だけ空は少し明るくて星が少ない。

「私、何で…?」

「気が付きましたか?」

声のした方を見ると、たき火の向こう側にマフラーを取って上着を脱いだゴーシュがいた。その横には、ロダが寄り添っている。レイラはどこ?

「レイラは?」

「枕元にいますよ」

返事をするかのように、レイラは私の頬をぺろっと嘗めてくれる。撫でてあげようと思って、ゆっくり体を起こした。と同時に、上に掛けられていた毛布が落ちて、胸がすーすーとする。

「あれ?」

不思議に思って下を見れば、露わになった胸とお腹から下に掛けられている毛布、その毛布の上に掛けられていたらしい上着が目に入った。慌てて手の近くにあった上着で胸を隠す。この感覚からして、私は全身素っ裸のようだ。

「………」

「これには訳がありまして!決していかがわしい事をしたとか、そういうのはありませんから!」

無言でゴーシュをじーっと見つめれば、彼は焦ったように話し出す。その様子を見て、私は本当だと思った。ゴーシュは嘘を吐くような人じゃない。

「何で?」

「リーシャが風邪で倒れた後、そのままだと更に悪化しかねないので、服を脱がして乾かす事にしました。その、勝手に脱がしてすみませんでした」

理由を聞いて納得する。私が逆の立場でも、同じ事をしていたと思う。でも、理性と感情は別だ。理性で納得できても、感情は割り切れない。

「裸、見たよね?」

「………はい」

複雑な感情のまま訊けば、ゴーシュは顔を赤くして小さく頷いた。あれ?もしかして、私の事を意識してくれてる?だとしたら嬉しいな。

「くしゅん!」

ほんのりと流れたいい雰囲気をぶち壊したのは、私のくしゃみだった。さっきはグッジョブと思ったけど、今は逆だ。ちょっとは空気読めって感じ。くしゃみに言ってもしょうがないけど。

「まだ寝ていた方がいいですよ」

「うん、そうする」

ゴーシュの言葉に従って、ごろんと横になる。そして、毛布にしっかりと包まって目を閉じた。でも、何故か眠れない。

「ねえ、手繋いでもいいかな?」

「いいですよ」

私が声をかけると、ゴーシュは側まで来てくれた。手を出せば、ぎゅっと握ってくれる。

「側にいるから安心して下さい、リーシャ」

その言葉と共に、優しく頭を撫でられる。心地良いぬくもりを感じている内に、私はいつの間にか眠っていた。



「ふぁあー、よく寝た」

起き上がって、んーっと体を伸ばす。気持ちよく目が覚めた。寝る前は重たかった体も、今ではすっかり軽くなっている。

「おはようございます。もう熱は下がったようですね」

横から声が聞こえ、おでこに手を当てられた。どうやら、熱は下がったみたい。よかったよかった。

「おはよう。うん、もう大丈夫だよ。迷惑かけてごめんなさい」

「こういう時は、ありがとうですよ」

ぺこりと頭を下げて謝れば、やんわりと訂正されてしまった。

「そっか。じゃあ改めて、ありがとう!」

「どういたしまして」

今度は改めて、感謝の気持ちを込めてゴーシュに頭を下げる。彼はずっと倒れた私を看病してくれた。元はと言えば、私の自業自得なのに。むしろ、彼は止めてくれた。私、ゴーシュに迷惑かけてばっかり…。

「あの、そろそろ服を着ていただけるとありがたいんですが…」

軽い自己嫌悪に陥っていた私の耳に、控えめなゴーシュの声が聞こえてきた。はっと思い出す。私、服着てないんだった。

「ちょっと後ろ向いてて!」

慌てて声をかける。ゴーシュが後ろを向いたのを確認して、ほっと一息吐いた。それから、私は身支度を整えていく。ズボンと上着と靴と鞄がまだ少し冷たかったけど、我慢我慢。悪いのは私なんだから。

「こっち向いても、もう大丈夫だよ」

毛布を畳みながら、ゴーシュに声をかけた。くるりとこっちを向いた彼に、ありがとうと畳んだ毛布を手渡すと、彼は受け取って鞄に仕舞う。

「早くハチノスに帰りましょう」

ぐうー。

ゴーシュの言葉に返事をしたのは、私のお腹の鳴る音だった。体調がよくなったら、お腹も空いたらしい。なんて現金なお腹なんだ。

「じゃあ、食事をしたら出発ですよ」

くすりと笑うゴーシュが鞄から取り出したのは、あの激しくまずいスープ。背に腹は変えられないと覚悟して食べたら、案外すんなりと食べる事ができた。空腹は最高のスパイスというのは本当らしい。あのスープがまあまあの味になるなんて。

「じゃあ、今度こそ出発だね。ゴーシュ、レイラ、ロダ、本当にありがとう。おかげで元気になったよ」

「では、行きましょう」

食事が終わって、私は改めてみんなにお礼を伝える。そして、ハチノスへ向かってゴーシュと一緒に歩き出した。だけど、しばらく進んだ所で立ち止まる。ある事を思い出したからだ。

「ねえ、私の裸見たって言ったよね?」

私がそう言うと、前を歩いていたゴーシュの動きがぴたっと止まった。そして、彼は振り返って私を見つめる。

「私、そんなに魅力ない?」

「今は仕事中ですよ」

意を決して問えば、随分と素っ気ない返答だった。人の裸を見といて何よと思う。最初に訊いた時は、顔赤くしていたくせに。

「それよりも、ハチノスに帰る事が最優先でしょう?」

「それはそうだけど…。裸見られたんだよ。どう思われたか気になるじゃない」

そう言われてしまえば、まさしくその通りだった。でも、恋する女の子としては気になる。好きな人が私の裸見てどう思ったのか。少しは気になってくれてるといいのに。

「全く、リーシャには敵いませんね…」

ゴーシュはそんな私の姿を見てため息を吐いた後、つかつかとこちらに歩いてくる。そして、私の耳元に口を寄せて囁くように喋った。

「ハチノスへ帰った後で、教えてあげますから」

「ん…」

ぞくりと肌の粟立つような感覚に、思わず声が出てしまう。

「さあ、帰りますよ」

不思議な感覚に戸惑っていると、ゴーシュに声をかけられた。はっと気がつくと、もう歩き出しているゴーシュの後ろ姿が見える。

「ちょっと待ってよー」

私は慌てて追いかけるのだった。ハチノスへ戻った後を楽しみにしながら。




猪突猛進も程々に

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ヒロインがビフレストから落ちた時の話です。思ったよりも長くなりましたが…。

ヒロイン、何だかんだでゴーシュを誘惑しちゃいました。しかも、裸を見られた恥じらいよりも、裸を見た好きな人の反応が気になるという。よっぽどゴーシュが大好きなんでしょうね。

2010.07.30 up
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