すれ違い様にハッと我に返って思わず相手の服の裾を掴んでいた。
「ん〜?なんの用だ?青少年」
作務衣だけれど、短髪だけれど、
「さ、むらい…?」
「俺のコト知ってるたぁ偉い偉い」
サムライ南次郎だ。
誉めてやるよ、なんて頭を叩くように撫でられる。
本物、だ。と思うか気づくかする以前(言葉が出てこなくなっていた。
金魚みたいにぱくぱく、酸素を食ってみるけれど、ただただ口の中が乾くだけだった。
まるでアイドルに会った女の子みたいにポーッとしていけない。
酸素を食う俺に気づいたのか、サムライ南次郎は不思議そうにこちらを見る。
「どうした?青少年」
「…、あ…、」
テレビの画面の向こうにいるはずのサムライが目の前にいる。
絞り出すように、ファンです、なんて言う。
蚊にも負ける声だった。
「俺の?」
ひとつ頷くのにも力をこめた。
ドコドコ鳴る心臓はキャパオーバー。
作務衣の裾を掴んだ指はいつの間にか離れていた。
「物好きだな」
くしゃり、と笑って。
ひらひら手を振りながら去っていくサムライを忘れられないんだろうなと思いつつ、力が抜けた脚はその場にへたり込んだ。