※ストーカー仁王続編
「ちょっと駐輪場行ってくる」
ちゃりん、と自転車の鍵を見せながら仁王はリビングを横切ろうとした。
斜めにかけられた小さな小さなバッグは少し膨らんでいた。
「待て、1人では危ない。俺も行こう」
真田に肩を掴まれると、不自然に仁王の体が跳ねた。
ついこの間まで不安に駆られていた身なのだ、と心中反省をするが、仁王を1人にするコトはできないと真田はそれを許さない。
「ならば俺が見てこよう。お前の自転車なら数回見かけたコトがある」
「だ、大丈夫じゃって!ほんのちょっと、どこにも行ったりなんかせん、何かあったらすぐに電話するから」
「何かあってからでは遅い!」
がつり、真田が仁王の肩を掴んだ瞬間だった。
細い体が揺れる。
微妙に開いた鞄の隙間から何かが、バサバサっと床に散らばった。
「…っ!」
「む、これは?」
「ダメじゃ!」
仁王の行動はワンテンポ遅かった。
一枚手に取って、それを確認した真田の目は驚愕に満ちた。
「仁王…お前、」
「…」
くしゃり、
真田の手の中で、それが、
「これはっ、一体なんだ…っ!」
真田の写真が握り潰された。
床に散らばった他のものも見なくても分かった。
全てが盗撮写真。
被写体は真田だ。
言葉が出ない真田が見つめる先、俯いた仁王の表情が上手く読み取れない。
取れなかった。
「…」
「…、」
「…」
「…に、」
「あーあ、」
今度は真田が体を震わせる番だった。
放心状態な体は少しの力で尻餅をついた。
引き締まった体の上に仁王が跨がる。
「一番のお気に入りだったんに」
「仁、王…」
「ちゃあんと綺麗に伸ばしたら、ベッドの上に貼るんじゃ」
ぎらり、
怯えていたはずの仁王ではなかった。
それは肉食動物のそれにそっくりであり、薄ら笑いが寒気を誘う。
散らばった写真を一枚ずつ拾いながら、これはどこに貼って、これはあそこに貼ろう、これはどこがいいだろうか、なんて思案を始めた。
驚愕の色を隠せない真田にようやく気づいたのか、ぐっとその綺麗な顔が真田に近寄る。
「のぅ、真田?」
「、」
「俺は幸せじゃよ?たくさんの写真に囲まれても、やっぱり本物はひとつしかないからの」
ずーっとずーっと愛してくんしゃいよ?
それだけ言うとケラケラと軽やかに笑いだす。
止まらない。
止まらない。
強制的な愛してるの苦痛。