帰る頃には真っ暗だった。

書類的な手続きだけだったので、真田に先に帰るように促して一人で会場に残った。
ようやく全てが完了した時に、ぽっつりと終わったんだなと実感した。

そういえば、赤也が号泣してたっけ。
真田に背中を押されるように軽く叩かれたような気がしたけれど。
もしかしたら、柳だったかな。

ついさっきの出来事のはずなのに、どこか朧気だった。
ラケットバッグを肩に掛けて。忘れ物も、うん、なし。
ぼんやり遠くの街灯を目指して外に出た。






「プリ」

緩慢に歩いていた足が止まる。
ゆっくりゆっくり視線を巡らせると、暗闇にマッチしない頭の色。
黄色いジャージがしゃがみこんでこっちを見上げていた。
よっこらしょ、なんておっさん臭い掛け声と一緒に立ち上がると、ラケットバッグを担ぎ直してのそのそと仁王がこちらにやってきた。
俺は左で、仁王が右。

「手続き長すぎじゃなか?」
「そんなコトないと思うけど」
「ったく。腰痛くなったわ」

ますますおっさん臭い発言をかましてくる。
猫背直せば、と言えば、ケロケロといなされた。
くすくすと笑う。不服そうに仁王がまた鳴いた。

「なぁ」
「なに」
「…」

沈黙。長い、長い長い沈黙。
べったらべったら隣を歩く仁王に視線をやるわけでもなく、また遠くの街灯を見つめた。
ふ、となにかが指先を掠める。ごめんなんて言わない。
今度は、しっかりと指先をなにかが捕らえた。

「冷たいのぅ」
「心があったかいんだよ」
「…プピーナ」

少し歩みが遅くなった仁王に、しゃきしゃき歩きなよ、と声を掛けてから歩幅を広くする。

「のぅ。明日の部活、休みじゃろ?」

買い物付き合え。
歩みの遅い仁王が斜め後ろから声を飛ばしてくる。
くんっ、と絡まった指先を引っ張ると、慌てたように距離を縮めてきた。

馬鹿だなぁ。
帰れって言ったのに。試合後なにも言わなかったのに。腰痛いって文句いう癖に。

「なに言ってんの。明日も部活あるよ」

不器用なヤツ。
仁王がぎょっとしたのが伝わる。
きっとどうやって慰めようか考えに考え抜いたんだろう。
優しい言葉をかけるとか、言われた通りにするとかじゃなくて、傍にいようなんてさ。
人の裏の裏をかくような男のチョイスとしては、大分稚拙。
素直すぎて笑ってしまう。
だけど、まぁ、

「寄り道くらいして帰っても、バチは当たらないだろ?」

お前らしくて俺は好き。











大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…!
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