仁王を押し倒してやった。
頭打っただの、腰打っただの、ぎゃーぎゃー五月蝿い。
ちらちらして邪魔な前髪を鷲掴むと、それはそれで文句たらたら。
コイツが文句を言わないようになるコトなんてないんだろうなと考えつつ。

「そろそろ逃げる?」
「どこに?」
「誰もいないところ」
「幸村もおらんところに俺一人で行きたいのぅ」

厭らしく笑うもんだから、少し腹が立って薄っぺらな腹の上に腰かけてやった。
案の定重いなんて聞こえたけれど無視してやった。

「俺がいなくなったら生きていけない癖に」
「自惚れんな」
「死んじゃうくせに」
「馬鹿言うな」
「死ぬの?」
「馬鹿なん?」

俺に言い返すなんて仁王くらい。
だからこそ腹が立つ。
気づくと、押し倒した仁王の顔があと少しの距離になるくらいには詰め寄っていた。
あー、いいじゃないか。

「…」
「…」
「嬉しい?」
「嬉しくない」

俺が直々にキスしてやったんだから、喜びなよ。




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