※プロローグ的な、仁王独白








わぁ〜!かわいい〜!こっちおいでぇ

甲高い女子の声で目が覚めた。
夏休みも部活で毎日スケジュールは詰まっている。
朝から始める練習はもちろんハードで、午後の補習まで体力が残っている訳はなかった。



体育館の舞台の下。
半地下になった体育倉庫は改修工事されたばかりで綺麗なのに人が少ない、冷たいコンクリートと細い窓から入ってくる風を楽しむのには最高の場所だ。
換気用です、とばかりに開けた人一人も通れそうにない窓から外を覗く。
数名の女子がいるのが見える。さっきの声はコイツらか。
しゃがみこんでいる真ん中には、なるほど

「(ネコ)」

ミャーミャーと鳴く小さな生き物がいた。
サイズからしてまだチビか。
しゃがみこむ女子たちのスキマから見え隠れする姿に思わずジッと見やっていた。





またねぇ〜!

しばらくすると、間延びした声と挨拶だけを残して女子たちがいなくなる。
どうやら俺には気付かなかったらしい。(いや、気付かれたら気付かれたで困るんだが。)
女子の去ったそこにはぽつんと一匹。
やはりチビのようだ。大分成長はしているようだが、体のサイズは成猫よりも少し小さく子供らしい。
目だけでじっと見つめていたはずなのに、ネコがこちらに気付いた。
ミャア、と鳴く声もまだ高くて可愛らしい。
トントン、と近付いてくる姿に思わず窓から手を伸ばした。

「よっと…」

ミャア、

伸ばした手を、擦り寄ってきたネコごと窓の内側に引っ張り込んだ。
小さな体は問題なく窓を潜り抜けて、体育倉庫の涼しさに満足したように鳴いた。
マットの上に仰向けに寝転がり、ネコを胸に置く。

「お前さん、どこから来たんじゃ」

ミャア、

「家は」

ミャア、

「まさか迷子か」

ミャアア、

バカにするなとばかりにペンペンと尻尾で俺の腹を叩いてから、その場でクルクルと寝やすい形を探す。
落ち着いたのか、どろりと溶けたように伏すが、きちんと顔はこちらを向いている。
分かってるじゃないか、誉めながらぐりぐり頭を撫で回せば、負けないとばかりにその手に頭を擦り付けた。

「お前さんはえぇのぉ、」

ミャア、

「美味しいものはたくさん貰えるんか?」

ミャア、

「涼しいところも見つけられるんじゃろ?」

ミャア、

「みんなの人気者じゃな」

ミャアア、

コンクリートは外の暑さなんて嘘みたいに詰めたくて気持ちがいい。
開けた窓から入る風はここ数日で一番だと思えるくらいに丁度よく倉庫の空気を入れ替えた。



ネコを撫でて、話しかける。
それだけの作業は実に緩慢な動きだけで充分で、気付けば意識がゆるゆると遠くへ離れかけていた。
俺が寝てしまえばネコはどこかへ行くか、はたまた寝てしまうか。
飼っている訳でもないし、俺が束縛する理由もない。
少し暇潰しに付き合ってもらっただけ。
ありがとな、と言って狭い額を撫でれば気持ち良さそうに目を細めた。

「ネコが羨ましいぜよ」

ミャア、

美味しいご飯は食べられるし、涼しい場所だって行ける。
それに、もしかしたら、ネコの愛らしい姿なら、素直になっても許される気がした。
ミャアミャア、と鳴くネコを擽るように撫でる。

「おう、お前さんが羨ましいんじゃ」

いっそ、

「俺もネコになりたいのぉ」

ミャア、

嬉しそうに鳴いたネコを撫でながら、とうとう俺の意識は夢の世界に旅立った。











この後目が覚めると猫になってるというテンプレート長編。のプロローグ的な

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