教室に入ってくるなり、国語の先生は窓の外を見て嫌な天気ですねぇ、と言った。なんだっけ、春に三日のなんとか。
確かに、と思ったのは覚えているが何て言っていたのかはさっぱりだ。




雨は好きじゃない。
昼休みに校庭で遊べないし、靴もぐっちゃぐちゃ。
窓も閉めてるせいで空気は悪いし、屋外コートしかない立海じゃあテニスもできない。

まぁ、一番の問題はコイツだ。
いうコトを聞くやつじゃないのは知ってたが、もう少し大人しくしてくれてもいいと思う。
幸村部長の機嫌も最悪だ。
目の前をちらつく髪を指先で弾いたが、びよん、と元の位置に戻ってきた。むかつく。

「増えとる」
「あぁ?!」

背後から聞こえた声にぷちん、とキレる。誰がワカメだって?!
むかつき度合いはうなぎ登りだ。
よし決めた。振り向いた先にいるヤツの頭をわっしゃわしゃに掻き乱してやる。てめーもワカメだろ!って笑ってやる。
そう決意して振り向こうとする前に、視界ががくん、と下がった。

「どう、どう」
「先輩…、」

見事な膝かっくんを食らって戦意喪失。
見上げると、仁王先輩だった。

こんなとこで何してんすか。
ぷりっ。

相変わらず、掴めない人だ。




「苛立っとるのぅ」
「天気悪いんで」
「雨?」
「っす」

何故か結局一緒に歩いて、先輩が自販機に小銭をいれるのを見ていた。
どうやら、すでに幸村部長の機嫌は最悪らしい。(髪質が似てるとか言ったら多分ぶん殴られるだろうから言わないけど。)

「雨なんてなくなりゃいいのに」

髪に触れると、案の定ごわごわしていた。
別にいつもきめてる訳じゃないけど、これはない。
はぁ、とため息を吐くと仁王先輩は笑った。
同時にぺったりと頬にくっついた温かさに一瞬驚いて肩が跳ねる。

「まぁ、そう言いなさんな」

あったかいもんでも飲んで、落ち着きんしゃい。
俺の手にあったか〜い お茶を押し付けて、いつの間に買ったのか分からない同じお茶を手に仁王先輩は教室へ戻っていった。
なんなんだあの先輩、と思ったけれど、今ごろ教室で俺と同じものを飲んでるのかなとか思ったら、少し楽しくなった。














増えるワカメ

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