レポートが終わらなかった。
半分徹夜状態は体に悪い。
完璧でありたいけれど、これはどうしようもない。あくびをひとつした。
涙の膜のすぐ向こうに見たコトのある色を見つけて思わず目を擦る。

「何しとるん、仁王くん」
「ぷりっ」

クリアになった視界で捉えたのは、(たいして綺麗そうにも見えない)壁に寄りかかった銀色。
こちらに気づいたのか、視線だけこちらに向けると、(たいして綺麗そうにも見えない)壁から背を離してニヤリと笑った。

「授業は?」
「教授、休みなんじゃ」

にやり、と笑ったそれが嘘か本当かはわからないけれど、どうにも嘘に感じて眉を潜めた。
大学生の朝は早い。腕時計を見るまでもなく、壁の向こうの店はあと少しで開店のようだから、10時より少し前くらいだろう。
そんな時間から何をしているのか。
聞く方が不粋かもしれない。

「朝っぱらからパチンコか?」
「ぴよっ」

カジュアルを通り越してラフな格好は、下手したら隣に並んでいる年の行った男性のそれと似ていた。
列は離れられんから、こっち来て。と、手招きされていけば微かにタバコの臭いがした。

「授業?」
「おん」
「さっすが優等生」

けらけらと笑う音にも眉を潜めるしかない。学校は、と聞けば、多分いくかもしれないと、掴み所のない答え。ため息を吐く。
白石、と名前を呼ばれて顔をあげればタバコ臭い唇が降ってきた。

「煙い」
「すまんのぅ」
「健全な生活しぃや」

ぱちぱちと瞬きをして、もう一度仁王はにやりと笑った。

「そのうちな」


















不健全に生きる仁王雅治

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