※特殊設定(桃娘)
味、なんてものはさっぱり分からない。
分からないというよりも、知らないのだ。
いつも通り、柔らかいそれに歯を立てた。
家庭科の授業で先生が言っていた。
固いものを食べない現代人は顎が細いのよ、あら仁王くんは現代人ね。
いろんな目がこちらを見て、納得して、少し笑って。
誰もこちらを見なくなった頃、自分の輪郭を撫でた。固いものなんて、食べたコトがない。
「まだ残ってたのかい」
部活後、椅子にのけぞって座り、ぼんやりと部室の天井を見ていると、後ろから声がした。
がたん、と椅子を地につけて振り向く。
それと、幸村が体を寄せたのはほぼ同時だった。
椅子に腰かけた分低い身長が丁度いいのか、すん、と鼻を聞かせる音が旋毛でした。
「帰り、どこか寄っていく?」
「…焼き肉」
「食べれない癖に」
ぺろり、と幸村の舌が首を這った。慣れない。
適当にシャワーを浴びたのがいけなかったのか、執拗に這う舌の感覚はいいものではない。
肩に置かれた手を数回叩けば、ようやく距離ができた。
恐る恐る首に触れると、そこは唾液でべとべとになっていた。
「最悪」
一緒に帰ろう、という言葉に背を向けて手を降りながらもう一度シャワー室へ向かった。
「仁王が悪いよ」
「ぴよっ」
半目でその姿を見つめるしかない。
2度もシャワーを浴びなければいけなくなったのは誰のせいだ。
近づいてきた幸村に手首を取られた。
また舐められたりするのだろうか、と思わず身構える。(暖かいお湯でも、何度も浴びれば疲れて来る。)
「俺が、」
「…」
「いつか仁王にかじりついても、笑って許してよ」
帰ろう、二度目のそれに頷いたのではない。
まだもう少しこうしていたいのだ。
笑って許してやるくらい、造作ない。
シリーズ化したいです。