かちり、と時計の針が鳴った。
明るい部屋の中、ソファ代わりのベッドに横になってぐーすか寝ているヤツをみやる。
さっきまで騒いでいたのは誰だったか。思わず溜め息をついた。







誕生日、祝ってくれんね。

年内の部活最終日に疲れきった体をなんとか支えながら部室をでれば。
ぱぁっ、と花が咲いたような笑顔とは裏腹に腕がすっぽ抜けるくらいの力で引き摺られて。
そんなコトを言われたのは、大阪行きの新幹線の中だった。
思わず殴ったのは、許してもらえると思っている。
結局、制服にラケバを担いだまま大阪までやってきてしまった訳だ。



服の心配をしていた訳じゃない。
両親と弟は年跨ぎで旅行に行っているし、姉貴も彼氏の家に何日か泊まると行っていた。

ただ、3時間だ。

湘南から川崎に行くのとは訳が違う。
いつも突然なのは知っていた。
それでも、いつもよりも大きな溜め息がでた。
心の準備くらいさせてほしい。









いざ30日になれば、あと2時間!あと1時間!あと30分!なんてセルフカウントダウンをし出す始末だ。
あと5分だの、1分だの、10秒だの。その程度であれば、付き合ってやるが、2時間も3時間も前から明日は祝え、明日は誕生日だ、と幾度となく聞かされ続けた時の気持ちを考えてもらいたい。
残念ながら、それほど図太くない神経の持ち主の俺には無理な話だった。

盛大にキレてそっぽを向けば、拗ねたのか、大きな体を縮こめて、ベッドに転がったって訳。
しばらくぐちぐち言ってたはずが、だんだんとフェードアウトしていくように静かになって。
不思議に思って覗きこめば、この様だ。あれだけ騒いで楽しみにしていた0時だろう、馬鹿。

「千歳、起きて。起きんしゃい」
「…ん、んん〜…」

肩を弱い力で揺すると、うっすらと目が開いた。
覚醒しきらないそれは、多分すぐに閉まってしまうんだろう。
あと数秒で1分だ、仕方ない。
ぐっと、体を丸めて閉じかけの目を覗く。

「…誕生日おめでとう」

ほとんど閉じてしまったそれを見ながら、こちらから小さく小さくキスを落とした。
時計を見れば、またかちり。
針が動いて0時1分。なんとな0時分に間に合ったらしい。ほう、と息を吐きながら体を戻そうとすれば、ものすごい力にそれを阻止され、ベッドの中に引き摺り込まれていた。

「おい、千歳」
「ん〜?」

こいつ、起きてる。
猫みたいにもじゃもじゃを擦り付けて、長い足は俺のを捕まえるみたいに絡み付いている。声は、至極嬉しそうだ。
確実に覚醒した千歳からなんとか逃げ出そうとするも、ならず。
旋毛に落とされたキスはどんどん降りていって、さっきのなんか比にならないくらい甘くて長いキス。
唇が離れれば、超至近距離のまま千歳はにっこりと笑った。

「誕生日、祝ってくれんね」
「…分かっとる、バカ」

強い強い力でハグされる。
恐る恐る手を伸ばして、こちらからも抱き締めてやった。
顔を見ないようにグッと体を寄せれば、あやすように背中を優しく叩かれる。
促されるように口を開いて、深呼吸を数回。
顔を見て言える自信はない。

生まれてきてくれて、出会ってくれて、好きでいてくれて、好きでいさせてくれて、

「…あ、りがとう」

体にまとわりついた腕の力が一段と強くなって苦しいくらいになったが、今はこれが気持ち良かった。













2015千歳ハッピーバースデー!

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