雨が降ってきたのと、腹が減ったのとで立ち寄ったコンビニ。
自動ドアがあくと同時に視界の隅に入った銀色に思わずドアを出たくなった。
見なかったコトにして店内を回り、びびる店員に会計をされながら食料と傘を買う。
もちろん自分の分だけだ。
「…」
表にでるにはあのドアしかない。
その隣はイートインスペース。
できればあの空間には足を踏み入れたくはねぇ。
そう思いながらも、ゆっくりとその姿に近づいて気づいた様子もない頭をはたいた。
「ぷり…」
「てめぇ、何してやがる」
「雨宿り」
ふっ、と笑ったそいつは確かに。寝ていたんだろう。
覚醒しきっていない目がこちらを向いていた。
空になったプラの容器。
こいつ、ずっと居座ってやがるのか。
店員がなぜか心配そうに様子を伺っていた。
「帰れ」
「雨降ってて帰れん」
「傘でも買え」
「お金、なくなっちゃったんじゃ」
ちゃりん、と揺らしたと同時に軽い音がした財布。
飲み物なんて飲んでねぇで傘買って帰れ。
ふつふつと沸く怒りを舌打ちだけで済ませて、買ったばかりの傘を押し付けた。
「さっさと帰れ」
しかし傘なしではこの雨の中、帰りたくはない。
もう1本買うか、と店内に戻ろうもすると、くっ、と何かに引かれた。
「…んだてめぇ」
「帰ろ」
のそのそと立ち上がると、目の前にあった容器をゴミ箱に捨てる。
服の裾を引いたのか、そのまま何故かドアを抜けて外に出ていた。
慌てたような店員のありがとうございましたを聞きながら、隣の仁王を睨んだ。
ぱっと透明のビニール傘が広がった。
「亜久津、早く」
「あ?」
呼ばれるも意味がわからねぇ。
睨みつければ、何故か俺の上に傘が掲げられている。
「1本でえぇじゃろ」
いこう、ともう一度服の裾を引かれ、しかたなしに歩き始めた。
「傘」亜久津バージョン