着替え終わって、覗いた窓の先。
思いもよらないその光景に回転の早い俺の頭はすぐに妙案を叩き出した。
にやぁ、と口の端が上がる。
表情でばれる?そんな心配はない。
見られたって構わない。
仕込みなんてないんだから。









「おや、仁王くん。まだいらっしゃったのですか」

ドアノブを捻って部室を入ってきた柳生は、部活後に突然先生に呼ばれてどこかに行ってしまった。
この天気だからか、他のメンバーは早々に帰宅。
そんな中、俺はパイプ椅子にもたれ掛かって、帰るメンバーを見送っていった。
必然的に柳生と二人きり。
もう校舎内にも人は少ないだろう。
こんなチャンス、滅多にない。

「明日も朝練はありますよ。早く帰りたまえ」
「帰れん」
「…どういうコトです」
「傘忘れた」
「あぁ…」

まるで呆れましたとも言わんばかりの反応ににんまり。
これでいいのだ。ここ最近は部活部活で二人になる機会がないに等しかった。
今日という日にばんざ、

「これを」
「は、」
「あなたのコトですから、きっと天気予報なんて見ないと踏んで持ってきていたのです」

どうぞ、と差し出されたのは、見たコトのない色の折り畳み傘。
昨日置き傘使ったじゃろ。
今日長傘持ってたじゃろ。

「お貸しします」

おい、なんてコトしてくれるんじゃ。

そこからの俺の行動は早かった。
差し出されていた傘を引ったくって自分のロッカーに放り込むと、錠をかけてその鍵を雨の降る校庭向かって投げ捨てた。
柳生が、あっという暇も与えないくらいの早業だった。
我ながら俊敏な動きだったと思う。

「雨降っとるき、帰れん」
「…まったく」

今度こそ呆れた、と顔にまざまざと書かれている。
着替え終わるまで待っていたまえ。
そう、それが聞きたかった。



















「傘」柳生バージョン

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