「(…雨)」

確かに朝からどんよりした空模様ではあった。
授業6時間、部活が始まる頃にはぽつぽつ降りだして、終始筋トレになった部活が終わった今は、本降りだ。

いつも通りにポケットに突っ込んだ両手に傘なんてあるわけもなく。
置き勉の教科書で一杯のロッカーに傘なんてある訳もなく。

屋根の縁の下でうずくまって空を見上げるだけしかできない。

「仁王、どうした」

雨、やまんかな。と亀みたいに首を伸ばしていると、後ろから聞きなれた声。

「傘、忘れたんじゃ」

真田だ。
ちっともやまない雨に辟易して、後ろを振り向くと、あからさまに険しい顔。

「たるんどる」
「 」

ですよね、と返す言葉もない。

日頃から準備をしておかぬのが悪いのだ!かーつ!

生憎、エア真田でお説教は済んでいた。
もう一度同じ説教を聞くよりも、どうやって帰るのかを考えた方が得策だ。
耳を塞いで、どんより空に視線をうつそうとした、

「帰るぞ」
「…!」

ぐっと引っ張られた腕につられて、足を立たせる。
左手には紺色の傘、右手には俺の左手。お説教は飛んでこなかった。



意味がわからず、ぐっと足に力を入れて立ち止まる。
その抵抗もむなしく、あっという間に雨の下、紺色の傘の下にいた。
引っ張られるように掴まれた腕をなんとか振りほどいて、真田の歩幅に合わせて歩く。

「ったく…」
「む、なんだ」

初な癖に、初な癖に。
この男のこういうところがやっかいなのだ。

「顔が赤いぞ」

なんの下心もなく、こういうコトをされるこちらの身にもなってほしい。
指摘されたそれを隠すように、頭をがしがしと掻いた。

「なんもなか…」

だから、こっち見んな!
どんどん熱の溜まっていく顔を隠すのに必死だった。






















「傘」真田バージョン

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