誕生日パーティーをするからお前も来い。

ほいほいとついて行ったのが間違いだったと後悔したのは、すぐのコトだった。
俺の知ってる誕生日パーティーなんてちっぽけだったんだな、と目の前の光景にげっそり。

「景吾様、ご生誕おめでとうございます」
「ぼっちゃま、あちらに藤堂様がお見えでございます」
「まぁ景吾様!見違えるようにお美しくなられて!」
「景吾様!」
「景吾様!」
「景吾様!」

きらびやかなドレスや、洋服、和服もなんだか上等なものなのだろう。(価値なんか分からないが、いいものに違いない。)
老若男女、いろんな人が入り乱れて、まさにパーティー。
部室を飾ってやるようなものじゃなかった。
自分の制服をつまんで、離した。…随分ぺらぺらに見えるのではないだろうか。
いつもよりもきちんと着た制服も、この中にいては逆に目立つ。3年間、お疲れさま制服。

たくさんの人に囲まれて、祝われる跡部を横目に、なるべく姿を見られないようにその場から離れた。





人を避け、人を避け、うろうろと歩き回れば、会場から少し離れたらしい。
グラスを持ったドレスの人も、シルバーの盆にグラスをたてた執事の人もいない。
ぐるり、と辺りを見渡せば、あぁ。ここには一度来たコトがある。
暑くもなく、寒くもない日。跡部と紅茶を飲んだ場所だ。
暗闇の中でも白いテーブルと椅子は目立つ。
軽く座面を払ってから、もたれ掛かるように腰を下ろした。
ふぅ、と長いため息。人疲れだろうか?
いや、

「(苦し、)」

ぽっかりと心に穴が空いてしまったような虚無感からだ。
跡部はあの中にいても見劣りするどころか、誰よりも華やかだった。
俺には、跡部の周りの人の、あの華やかな服も、きらきらなオーラも、高そうなプレゼントもない。

不釣り合い。

その言葉がぴったりすぎて、ずん、と気分が一層沈んだ。
頭を抱えながら今一度ため息。

「おい」

びく、と肩が跳ね上がった。
聞きなれた声、それから向かいの椅子が引かれる音。
ゆっくりと顔をあげると、さっきまでたくさんのきらきらに囲まれていた本人。
ぐっ、とまた胸が痛くなる。

「なにも言わずにいなくなるなんていい度胸だな」
「…すまん」
「俺様の誕生日パーティーだって言うのに、随分しけた顔してるじゃねぇか」

あーん?
いつも通りの跡部だ。
それすらも今の俺には苦しい。
白いテーブルの一点を見つめ続ける。
声は出せない。

「仁王、どうした」
「…なんも」
「そんな見え透いた嘘が通じるとでも思ってるのか」
「…」

深呼吸をしよう、そうしよう。
そう思って開いた口は、余計なコトを言う。

「俺は、なんも持ってないんじゃ」
「…あーん?」

しまった、そう思った時には遅かった。
意味がわからないというように歪められた目、眉間。
俺には、なにもない。

「跡部の周りにふさわしいようなものは何一つ持ってない、」

「上等な服も、」

「高価なプレゼントも、」

「人を巻き込めるようなオーラも、」


何もない。

ぼろぼろと溢れていく不安は、口に出せばエゴのようだった。
くっ、と唇を噛んで馬鹿な自分を責める。
苦しさはなくなるどころか、さらに強くなった。
早くあそこへ戻れ、と態度で示す。
が、黙って聞いていた跡部の手によって目と目が合わされる。

「あと、べ…?」
「そんなもの、持っていてどうなる」
「え、」

馬鹿にしたり、幻滅したり、そんなものは読み取れない。
跡部はいたって真面目だった。

「洋服だ、プレゼントだ、オーラだ?そんなもの微塵の価値もねぇ」

「相応しくないなんて誰が決めた」

「自分にふさわしいものは、俺様が一番分かってる」

ぱっ、と手を離されたかと思うと、跡部はおもむろに腰を上げた。
言葉の意味を咀嚼するのに必死な俺は、ぼんやりと見上げるだけ。

「祝えよ」
「な、に」
「俺様のバースデーだ。てめぇが祝わなくて誰が祝う」

それだけ言うと、おそらく会場の方へ跡部は歩きだす。
我に帰って、絡まりそうになる足を動かしながら跡部を追った。





(「跡部、生まれてきてくれてありがとう」)
























跡部様、ご生誕おめでとうございます。

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