「あ、」
「お、」


ばったりと出くわした仁王さんは、色んなものにまみれていた。
この人、誰よりも祭りを満喫してるんじゃないだろうか… 。
聞けば立海で来たのだという。
そういえば、立海には着付けができそうな人が数人いたような。
思った以上にきっちりと着られている浴衣。
他はてんでばらばらだった。
頭に横向きに引っ掛けられたお面に、手には金魚とスーパーボール。
肩にはくじの景品だろうか、中身の分からない袋が下がっている。
食べた形跡も、開けた形跡もない袋の綿菓子だけが軽そうだった。
極めつけは、首から下げられたアヒルを模したシャボン玉。

間違いない、この人祭りを楽しんでる。
はぁ、とひとつため息を出せば、なにを勘違いしたのか、綿菓子を食うか?なんて差し出してくる。そうじゃない。
丁重に断ると、ふーん、といいながら真横にあった露店でいか焼きを頼んで頬張り始めた。

「なんでおるんじゃ」
「…いとこの家に行ってたんですよ」

ようは帰り道だったのだ。
賑やかだなと思ってはいたが、道が塞がるほどの人の量に圧倒された。
残念ながら、帰ろうにも駅は人混みの向こう側で。仕方なく歩いてきた訳だ。
甘い匂いや子供の声が、夏祭りだということを教えてくれた。

「祭りは嫌いか?」
「いえ、そんなコトはないですけど…」
「ふぅん、」

駅まで一緒に行こうと促されて止めていた足を動かす。(仁王さんはまだ帰らないらしい。)
途中で喉が乾いたのでラムネを買った。お茶もあったがなんとなく。
きっと隣のいろんなものをくっ付けた人に感化されたんだと思う。
久々に飲んだ炭酸は少しきつめだった。

「捨てるんか」
「え?」

飲み終わったラムネの瓶をゴミ箱に捨てようとすれば隣から声。
空っぽなんだからそうするしかないじゃないか。
頷けば、仁王さんは空のラムネの瓶をくれと言った。

「どうするんですか、こんなもん。もう中身ないですよ」
「こうする」

きゅっと音がして、濃い水色の飲み口が外れる。
瓶を傾ければ、蓋の代わりだったビー玉がころりと転がり出た。
瓶を捨てると、近くの水道で自分の手ごとそれを洗う。

「ほら、綺麗じゃろ」

透かして見せられたそれは、水滴のせいでどこを写しているかすらわからない、だけどどんちゃんした空気をぎゅっと詰め込んでいた。
ラムネの屋台に瓶を返す子供の、もの欲しそうな顔を思い出した。
ビー玉なんてそこらに落ちてるものでもないし、きっと彼らにとっては綺麗で手にいれたいものなんだろう。

この人も然り。

びしょびしょに濡れた指でビー玉を挟んでその先を覗いていた。
その先に見えたのはなんだろうか。一瞬、俺の方を向いた気がしたが気のせいにしておく。



いつのまにか駅に到着。
人は多いがそれほどでもない。
祭りが終わる前に帰ろう。

「のぅ、日吉」
「…はい?」
「ビー玉くれたお礼」
「は…?」

なにかを首にかけられた。
お礼とは?
正体を見れば、さきほどまで仁王さんの首にかかっていたアヒルだった。
基準服にネオンカラーの容器は不釣り合いだった。
だけど、

「似合うとる」

仁王さんが嬉しそうに笑うものだから、ありがとうございますとだけ返して改札を抜けた。















夏祭り2014

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