からんころん、と下駄を鳴らして石畳を蹴る。

夏祭りに行きたい。

きっかけは単純で、そうこぼしただけ。
聞いてないフリをして、しっかり耳を立ててるんだから、いつもの怖い態度も照れ隠しだと思えてしまう。(まぁ、怖いもんは怖いけど。)
家に呼ばれたと思えば、浴衣が二着。
着付けまでしてもらえば、帯の苦しさも忘れるほど、浮かれている自分がいた。



からから、ころころ、人の多い祭り会場でも足元の音はよく聞こえた。
くん、とつんのめるような歩き方は難しくて、何度か躓きかける。
親子連れや、カップルなんかがたくさんいるが、女子同士のグループや、男同士の集団が目につく。
そのおかげか、真田の隣を歩いても、悪目立ちするコトはなかった。



射的をして、輪投げをして、金魚すくいは世話が必要だから上から覗くだけにした。
夕飯代わりの焼きそばとたこ焼きの容器を捨てにいけば、鼻の頭に、ぼつり、と冷たい感触。

「(あ、)」

雨だ。

そう思う間にそれは一気に地面を濡らしていった。
わー、だの、きゃー、だの会場から聞こえる声。
そういえば、予報ではゲリラ豪雨に襲われるでしょう、なんて言っていたっけ。
ぼんやりと立っていると、突然腕を引かれてバランスを崩しかけた。

「なにすっ、」
「雨宿りできる場所を探すぞ」

誰だ、と振り向けば真田。
引っ張られるように、ぐんぐんと進む真田の背中を強制的に追っていく。
雨はどんどんひどくなってきた。
祭り会場の中は飽和状態。
出店のテントの先にも、街路樹の下にも、シャッターの閉まっている店の前にも、必ず誰か(まぁ、カップルが多かった。)がいて、その中には入れない。
ぐんぐんと腕を引かれながら「家に戻るぞ」という真田の声だけはキャッチ。
この雨じゃあ、祭りも中止だろうか。
なんとなく寂しくなった。








真田の家に近づく頃には、頭のてっぺんから足の先まで雨に濡れてしまっていた。
無理に走ったからか、なれない下駄の鼻緒で靴擦れまでできている。
ぴりっ、とした痛みに耐えきれず思わず立ち止まってしまった。

「どうした?仁王」
「ん、靴擦れじゃ」

ゆっくりと足を引き抜けば、もちろん当然のように指の間は真っ赤。
ザーザーと降る雨に濡れて、あまり心地のよい感覚ではない。
強く掴まれていた腕が軽く解放される。

「大丈夫か?」
「あぁ、平気じゃ。先に行っといてくれても構わんよ」

この足じゃあ、急ぐ真田には到底ついていけない。
まだまだ雨は止む気配がない。
これ以上真田が雨の中にいる必要もないだろう。そういえば、首を横に振られて、肩を支えられる。

「真田?」
「…このくらいならば雑作ない。無理のない程度で構わん、歩くぞ」

ぎょっと、一瞬驚愕して、それから笑ってしまった。

頑固なのだこの男。

夏祭りに行きたい。
そういったのは、別に夏を感じたい!なんて理由ではなく。
ただ、一緒にいたいと思っただけなのだ。

足は痛む。
けれど、これのおかげで真田と一緒に歩けると考えれば、あまり悪い気はしなかった。


















夏祭り2014

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