昔の人間なんて、今と比べて欲にとんでもなく忠実だったんじゃないだろうか。
理性なんてなくて、そりゃあもう自分に正しくと言いますか。
今だったらきっと大顰蹙な考え方だと、思う。



今年もどんよりと空が曇った。ましてや、雨なんかも降った。
朝から誰も期待なんかはしていない。
今年も天の川は見えなかった。

「今年は、見えんかったのぅ」
「せやな」

窓からどんより重そうな雲を眺めて、そう呟くと、コトリとマグが置かれる音と相槌が返ってきた。
なんや、見たかったん?という言葉に首を横に振る。

別にそういう訳ではないのだ。見えなかったら見えなかったらで構わない。
一年に一度の再会を邪魔しないように、なんてコトを考えている訳でもない。
ロマンチストには、なれない。

「一年に一度じゃって」
「彦星が織姫に会えるのが?」

こっくりと頷いて、続けて首を横に振る。
合っているけど、間違ってる。
ベガとアルタイルはそれまでの距離より幾分近くにいるだけで、重なりあったりくっついたりはしない。
手を繋いだり、キスしたり、そんな距離にはない。
そりゃあ星のコトだから、なんて真面目に答えるのもあり。

「可哀想?」
「いんや、俺はそれでもいいと思う」

昔の人間は欲望に忠実だ。
一夫多妻制の中心の男性にとっての純愛はどこなのだろうか。
彦星と織姫は純愛だとしてもだ、それを伝えた人間の純愛って謎だ。
難しいコトを考えるのはやめよう。

今日は昨日よりも涼しかった。
とは言ってもクーラーで冷やされた部屋は寒い。
ソファの左隅にはもう忍足が座っていた。
いつもより少しだけ、左側に寄ってソファに腰かけた。

「なんや?」
「うん、」

ソファの上に投げ出されたマグを持っていない手の上に手を重ねる。それだけ。
ほら、

「俺はこのくらいで十分」

欲にまみれたゼロ距離の愛もいいけれど、手が触れるくらいの距離も、いいもんじゃろ?


















七夕遅刻

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