部室に入ると、銀色の頭が膝を抱えて蹲っていた。
ひとつ溜め息を吐く。

ぴくりとも動かないが、寝ているわけでも、ましてや体調が悪い訳でもないのは、すでにわかりきっている。
音をたてないように後ろ手でドアを閉めて、データを記したノートを棚に納めた。
ずっ、と鼻をすする音が聞こえる。
懲りない、やつだ。

そんなに嫌われなくないのなら、無駄なコトはしなければいい。そう思わざるを得ない。
ちょっかいをかけては怒られ、誰もいない部室で泣くのは止めてほしいのが本音だ。

そう思いながらも、今日も俺は銀色の横で膝をつく。
そっと手を伸ばして髪を払いながらこめかみに触れる。
びくり、と体を跳ねさせるが手は引かない。
銀色のだけを見ながら、ゆっくりと未だに下を向く視線を覆っていく。
その手の上から、濡れた手が重なった。
薬指の第二関節を擦るのは無意識なのだろうか。
ノートの管理は万全を期しているが、これだけはどうしても書き込めない。

少しだけ力を加えて、顔をあげさせる。
目元の手は絶対に離さない。
頬には、涙が幾筋も流れた跡。
きっと目は真っ赤に違いない。
また、ずっと鼻をすすり、銀色は、仁王は、次に必ずこう言う。

「…ごめんなさい」

仁王に聞こえないように、深く深く息を吐く。

謝るくらいなら、やらなければいい。
泣くくらいなら、やらなければいい。

不器用なこの男にはそれがどうしてもできないらしい。
人一倍嫌われるのには敏感で、一人で落ち込んでこうして泣いて。

「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい…、」
「嫌いに、嫌いにならないで、」

こうして泣いては、何回もごめんなさいと嫌いにならないでを繰り返す。
この男は、不器用だ。
そして、

「ごめん、柳生…」

こうして仁王の視界を奪うだけの俺はもっと不器用なのかもしれない。

仁王が泣きつかれて眠るまでこうして視界を塞ぎ、励ましの言葉もかけてやらない。
ただただ黙って「誰か」のフリをするのだ。
こうして、仁王が泣いているのを見る度に、少しずつ心が削れていくような気がする。

泣かなくていい世界は、ないのだろうか。














柳生を好きな仁王と、仁王が好きな柳

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