部活中、休憩が丸井先輩と重なった。
飲み物を二人して部室に忘れたのに気づいて取りに行く。
そんなに時間もかかる訳じゃあないし、部長とか副部長とかも忙しそうだったからこっそりコートから抜け出した。

「新年度早々、朝からみっちり部活なんて。ついてねー」
「丸井先輩から真田副部長とかに言ってくださいよ」
「ばか、俺に死ねっていうのか!」

くだらない話をしながら部室の扉を開ける。
あれ、

「おい、なんだありゃ」

どうやら丸井先輩も気づいたらしい。
部室の隅に黄色いジャージを着た人物が丸くなって膝を抱えている。
あまりにも小さくなっているから、一瞬洗濯物でも溜まったのかと思ったけど…。
あの髪の色は

「仁王じゃねぇ?」
「ッスよね」

仁王先輩だ。
近づいて仁王先輩、と声をかけると大きくその肩が跳ねた。

「赤也…?」
「仁王、どうした?」
「ブンちゃんもおるん…?」

膝を抱えて俯いたままの仁王先輩を不思議に思ったのか、丸井先輩もそばに寄ってきた。
もう一度、仁王先輩?と問いかける。
うっ、だか、ひっ、だか。なんか女子がよくしてるような息の仕方。泣いてるみたい。

でも、先輩が泣くなんて。

そう思いながら一歩後ろに下がったのは、俺だけじゃなかった。
お前が泣かしたんだろい?なんて。
ちょ、なんでそうなるんだよ!俺はなんもしてねー!
ぱっ、と顔をあげた仁王先輩をみて今度こそ二人してびびる。

「お、俺…俺…っ、」

泣いてるかもなんて、思ってはいたが、まさか本当に泣いているなんて。
仁王先輩は、ぼろぼろと涙を流していた。

「ど、どうしたんだよ、仁王!」
「誰に泣かされたんすか…!」
「お、おれ…もうおまんらと一緒にテニス、できんかもしれん…」
「え…」

さめざめと泣く仁王先輩の言葉うまく飲み込めずにそのまま固まる。
一緒にテニスができなくなるってどういうコトだ。

「どういうコト、だよ…」

丸井先輩の言葉に首を縦に振って同じコトを言いたいんだって伝えるしかなかった。

「俺…、俺…っ」

きゅっと、着ているジャージの胸元を掴む。
あ、あれ…?なんか先輩のジャージ、おかしくねぇ?
なんか、掴んでるあたりの布が押し上げられてる、みたいな…。
先輩、がりがりだからジャージなんてだらだらなはずなのに。
それじゃあ、まるで

「女の子になっちゃったみたいなんじゃ…!」

おっぱいがあるみたいじゃないか。
思わず釘付けになる。ちらっと見えた丸井先輩も、不自然なジャージに気づいているらしく、凝視していた。
胸筋でブラつけてるーなんてのは、ネタで聞いたコトはある。
だけど、そんな膨らみ方じゃないし、なによりこの先輩がそこまでごりごり鍛えるはずがない。じゃあ、一体あれは…。
信じられんかもしれんけど…!とか、どうやら熱弁しているみたいだけど、ごめんなさい。全く頭に入りません。それもこれも、結構揺れるおっぱい(仮)のせいなんです。
そっかあ、仁王先輩って女の子になったら巨乳になるのかあ。
あまりにも話を聞いていないのがばれたのか、俺たちの視線を辿って胸に行き着いたのを確認すると、ばっと腕でそれを隠してしまった。
あぁ!おっぱいが!

「…見んで」

どきゅん。
あれ?よくよく見れば切れ長の目が少しだけ大きいような気がする。
それに、うるうるしてる気がする。
なんか、いつもよりちょっと体も小さくないか?
目を擦って確かめてみても、うん変わりない。
女の子の恥じらう姿って結構クる。
だから、

「丸井先輩、俺、もうヤバイッス」
「おう赤也、ちょっと黙っとけ。俺もだとか言わせんな」

そういう目で仁王先輩を見出したらとまらない。
隠しきれてないおっぱい(仮)が腕の隙間からジャージの膨らみだけで見える。
あれ、仁王先輩って確か朝は普通だったよな?途中で女の子になっちまったのか?ってコトは…?

「もしかして、仁王先輩ノーブラ…?」
「…!」

ずがーん!と雷でも食らったみたいな衝撃。
ノーブラ、生乳、巨乳。

「ちょ…、待ちんしゃい」
「いやッス」
「いやだ」
「おまんらまだ部活中じゃろ…!」

真田に怒られるぜよ…!
必死で自分から注目を逸らせようとしているみたいだけど、無駄。

「二人とも真田にぶん殴られるぜよ…!」
「上等だ、殴れるもんなら殴ってみろい」
「んなの、今はなんも怖くないッスよ」

ワキワキワキワキ。
壁に仁王先輩を追い詰めて、じりじり距離をつめていく。
ようこそ!俺のパラダイス!






「ほーう、じゃあ真田に報告せんとな」

妙なしゃべり方に体が硬直して動かなくなった。
妙って言うか、いつも通りっていうか…。
ジャージのチャックを下ろして生乳があるはずの胸に手を置く。
おっぱいが、外れた。あああああ!!!

「仁王てめぇ騙しやがったな!」
「騙される方が悪いんじゃ」

また騙された!
仁王先輩に食って掛かる丸井先輩をみて頭を抱える。
そうだこの人、ペテン師だった。
忘れてた訳じゃないのに!くそっ。

「ひどいッスよ、仁王先輩!」
「プリッ」

大きく見えたうるうるの目も、恥ずかしがる姿も、おっぱいも全部偽物。
がっくりと肩を落とすしかない。

「さぁて、丸井と赤也がサボっとるって真田に伝えんとのぅ」

おっぱいを外した仁王先輩が嬉しそうに部室のドアを捻る。

「サボりは仁王も一緒だろ!」

生乳絞りを楽しみにしていた丸井先輩が吠える。確かに。
今休憩中なのは、幸村部長と柳さん、それから柳生先輩だけのはずだ!怒られるのも一緒ッス!そしたら、俺たちを騙して遊んでた仁王先輩が一番怒られるに決まってる。
俺たちを騙したのが悪いんだ!

「おや?仁王くんでしたら、コートで練習なさってますよ?」

真田副部長なんて怖くない発言が入っているであろうボイスレコーダーをゆらゆらさせながら、さも当然のように柳生先輩の声がした。
さぁ、と血の気が引いていくのを感じる。

「ま、まさか…」
「休憩時間が終わりますので、お先にコートに行っていますよ」

では、アデュー。
丸井先輩と同じタイミングで膝をついてしまった。
柳生先輩に化けた仁王先輩が真田副部長に俺たちが部室にいるコトをちくるまで5分。
真田副部長がぶちギレで入ってきて平手食らうまで2分くらい。

完敗だ。












エイプリールフールに遅刻しました。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -