※大学生設定
1限ほど辛いものもない。冬は特に。
寒いし、満員電車との差で、ホームがやたらに寒く感じるし。
ストーブで暖まった家から出るのは大分億劫だ。
1限開始まであと5分。
携帯が着信を振動で伝えてきた。
「もしもし?」
『おー、幸村』
「仁王?」
ろくに画面も見ずに電話に出たものだから、電話では珍しい声を聞いて思わずびっくりする。仁王から電話がくるなんて。
まず、連絡をしようなんて考えてるとは思えないし。
プリントやらレジュメが欲しい時にはやたら短いメールだけの癖に。
『悪い、幸村。行けそうにないけぇ、1限のプリント俺の分も取っといてくんしゃい』
「また寝坊かい?」
『ん、んー…、まぁそんなもんじゃ』
随分と歯切れの悪い答え方。
ピンと来た。
「素直に言うといいよ、仁王」
『は…?』
「お前、体調崩してるんじゃないの」
『んなコトない』
「正直に言いなよ」
ただの寝坊なら出てこれるだろ、とさらに追い討ちをかける。
『…風邪ひいたっぽい』
「そ。じゃあ、今からそっち行くから」
『え、ちょ…。来んでいい、うつったら困る』
「もしうつっても困るのはお前じゃなくて、俺だろ?」
『いや、家鍵かかっとるし』
「合鍵、どこ隠してる?」
『ない』
「嘘つけ。あるだろ?」
『…うえきば、』
「郵便受けの中ね、わかった」
『ぷぴーな』
熱も出てるのかな。
人を欺くために使っているはずの脳みそもうまく動いてない。
間髪いれずに答えられる答えは、その反対。
嘘つきのタイミングがいつもの精細を欠き過ぎだ。
「仁王」
『…ぷり』
「すぐ行ってやるから、いい子で待ってな」
『…。ケロケロ』
終話ボタンを押して、そのまま柳にプリントを2人分とっておいてくれと連絡をいれる。
あーあ、せっかく寒い中来たのに。
仁王の部屋にいくまでにコンビニかなんかで食べ物と飲み物を買おう。
風邪を引くと、人が恋しくなるなんていい得て妙。
あのペテン師がねぇ、なんて思わず口許が緩んだ。
1限に来たはずなのに、結局Uターンして走り出していた。