「珍しいな」
仁王がぶら下げる袋の中身を見て思わずそう口にすると、困ったように笑いながら女子に押し付けられたんじゃ、とそれを部室の机に置いた。
「食べていないのか?」
「甘いもんは好かん」
どうせブン太が全部食うじゃろー、ロッカーを開けて着替え始めた背中を見て、袋を覗く。
チョコレートだの、ナッツだの、安価ではないものばかりだが、仁王にとってはどれも同じでしかないようだ。
カロリーがとれればそれでいいのだろうか。
「参謀、食いたいんか」
最寄りのコンビニではいくらだっただろうか、なんて思案。
着替え終わったらしい仁王が意外そうにそういった。
残念だが、
「俺も甘いものはあまり好きではない」
「じゃろうな」
洋菓子の甘さはあまり好きではない。
バリッとビニールが破れる音がした。
「甘いものは好かないんだろう?」
「部活前の腹ごしらえ」
さほど食べる気もないのか、すぐに袋を机を置く。
きっと今開けた小分けの袋の中身も、部活が終わる頃にはすべて丸井の腹の中だろう。
ぽりぽりとプリッツェル部分が軽い音を立てる。
仁王の口許で、器用にポッキーの先が上下していた。
「仁王」
「ん…、っ?!」
ぱきん、
チョコレートのないプリッツェル部分だけが折れて口に残った。
ぱくりとそれを食いながら、今にも落ちそうなポッキーの端を指で押さえてやる。
「な、なにすん…、」
「喋る前に全て食いきれ」
ぽきん、ぽきん、
ぽきん、と先程よりも大きく砕ける音。
指を離すと、全て食いきった仁王が不服そうにこちらをじっと見ている。
「なんだ?」
「アホ参謀」
じとり、そんなオノマトペがぴったりではないだろうか。頬が赤い。
その視線を全く怖くないと感じるのは、染まった頬のせいだろう。
「そのままキスでもしてほしかったのか?」
「んな訳あるか!」
いつもは真っ白な肌が一気に色づく。
袋から一本ポッキーを取り出して餌付けのように仁王の口に押し込んだ。
ぎゃんぎゃん吠え始めた仁王が開けた袋が完食されるまで、それから30分もかからなかった。
本当はぽっきーの日に作っていた。