目が醒めると、机の上にひとつだけモンブランが乗っていた。
甘いものはもともと好かないし、自発的に買ったりなんてコトもない。
さすれば、

「いつまで寝てる気だ、てめぇは」

亜久津だ。
黄色いお山が好きなのはコイツ。実は甘党。ギャップありすぎ。

ぐぐぐっと伸びをする。
長い間変な姿勢で寝ていたせいか、ぽきぽきと骨が鳴った。

「コーヒーは」
「自分で入れやがれ」

えー、けちー。なんて。
駄々をこねる年でもないし。
台所に行くと、お湯ができていた。
…使わない癖に。
インスタントコーヒーを溶いた。






カシャンカシャン、と金属の軽い音がする。

「タバコ、辞めたんじゃないんか」
「あぁ?」

ちゃっちいライターが似合わないのは昔から。
ただの不良の癖にやけに様になるのだ。
机にコーヒーが入ったカップを置く。

「吸うんだったら、ベランダでやって」
「…吸わねぇよ」

カシャンカシャン、火がつくでもないライターを見る。

「じゃあ、なんでライターなんか弄っとる」
「…」

カシャンカシャン、

開いて閉じて、片付けられるでもなく、また開いて。

「なぁ、亜久」
「黙れ」

ひとつしかないモンブラン。
てっぺんにはスタンダードにシロップ漬けの栗がひとつ。
フォークもスプーンも用意していない。
あっという間に亜久津が摘まんだ栗は俺の口に押し込まれた。甘い。

ぽっかりとてっぺんハゲになったモンブラン。
その穴には小さすぎる気がする可愛らしい色のローソクが一本。
なんだこれは、と聞く前に亜久津のライターがようやく火を灯した。

「やる」
「は、」

ずい、と押された皿にはモンブラン。
頼りない鮮やかな色のローソクからツルツルと一滴蝋が垂れていく。
慌ててフッと吹き消した。

「…亜久津のは」
「…要るかよ」

素直じゃあない、この男。
飯を食ったまま放り出していたビニール袋を漁ると、運のいいコトにフォークが出てきた。

「俺も腹いっぱいじゃけぇ、半分」
「…」
「食いきれんよ」
「…もらってやらねぇコトもねぇ」

きっちり半分。
ブラックコーヒーと一緒でも甘すぎるくらいだった。













記念日大切にする系男子。

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