※暗いのが病的に嫌いな仁王くんシリーズ(と言いきる)







今日はここに泊まるぜよ。

恐ろしく堂々と荷物を持ち込んできたコイツは一体何を考えているのだろうか。イリュージョン。
シャワーはもう浴びてきただの、あとは寝るだけだの、看護師さんをどう言いくるめたのかソファ近くの床で持ってきたボストンバッグのチャックを開いていた。

「家は?」
「…」

質問を投げ掛けると、ぶすくれた顔がこちらを見た。なんだよ。

「ご両親は?」
「旅行」
「弟くんは?」
「旅行」
「お姉さんは?」
「彼氏の家」

嘘であって何の利益が得られるのか全く分からないからきっとこれは本当。

「なんで来たわけ」
「べつに」

用意してもらっていた毛布を頭からすっぽりと被って、俺から逃げたつもりなのだろうか。
きっと中身は胡座か、はたまた体育座りか。
溜め息を食べながら、ぱちりと電気を消した。
窓のブラインドは空きっぱなしだから月明かりが入っている。
今日の月は欠けている、抉れている、むしろ、ない。くらいに細い。

「…幸村ぁ、豆球はないんか」
「ないよ」
「さよか」

もそもそ、もそもそもそもそ、
ソファの上で動き回る音が少し続いて止まった。
背凭れが高いからか仁王が寝転がったのか定かではないけれど、

「(コイツ、寝てない)」

眠りに落ちていないコトはよく分かった。
きっと狸寝入りをしているつもりなんだろうけど、ばればれだ。
まだ毛布を被っていたらいいな。
音を立てないようにスリッパを履いてソファに近寄る。

「おい、そこのびびり」

一気に毛布を剥がすように捲れば、体育座りでギュッと縮こまる仁王。
明らかに何かに怯えて目は固く固く閉じられている。

「…」
「仁王、お前は何に怯えてるの」
「…」

ぶんぶんと横に首を振られても、残念ながら俺にはそれの意味は分からない。
早くいいなよ、なんて急かせば目は瞑られたままだったけれど、その薄い唇が開いたのが見えた。
いつの間にか目が慣れていたみたいだ。

「暗いのは…、」
「ん?」
「暗いのは、きらい。じゃ」

真っ暗で独りぼっちなんじゃないかって錯覚する。
なるほど。随分女々しくて可愛い思考の持ち主だった訳だ。
少ない月明かりを受けて青白く見える両頬を挟む。

「仁王、目開けなよ」
「…無理、じゃ」
「開けなよ」
「いや…っ、」

泣き出しそうな声を出されたけれどそれは知ったこっちゃない訳で。

「この俺を見れないって訳?」
「…鬼畜」

それだけ言うと、ナメクジが葉っぱの上を這うよりもゆっくり瞼が上がっていく。
そう、それでいいんだよ。

「俺を、俺だけをしっかり見てればいいよ」
「幸村…?」
「そうしたら、真っ暗なんて分からないだろ」

金色の目を見ていると、安心したのかふにゃり、とそれを囲う部分が歪んだ。












幸村:目を合わせる。


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