幸村が大切に育てている温室の花に、俺は一切手を出さない。
本当だったら、綺麗だなと思えば、タンポポでもアジサイでも思わず手折ってしまうけれど。

この温室ではそんなコトはできなかった。むしろしない。
そりゃあ、幸村が怖いからに尽きるだろう。
だから、俺は一切手を出さない。俺は。



思いきり腹を蹴られて地面に転ぶ。
温室の花が目の前にあった。
髪を鷲掴みにされて、花と花との間に(人が入れるほどのスペースはない。花に顔を突っ込む程度で精一杯だ。)押し付けられる。



一番綺麗な死に方は、たくさんの、とてもたくさんの強い香りの花と一緒に一晩を共にするコトらしい。
押し付けられたユリは、すごく、ものすごく、いいかおりがした。

「っ!」

全身の血が一気に引いていくのがわかる。
背中を寒気がとんでもないはやさで上ったし、全身が粟立った。
頭だけは、一瞬とても冷静に、嗚呼この香りの中で死ぬのか、と結論を出した。

怖かった。

きっと止められないから、仕方ない。
生理的に涙がでて、ユリを濡らした。

「泣かないでよ仁王」

幸村は優しかった。
さっき蹴り飛ばされたけれど、別に喧嘩をした訳ではない。
むしろ、理由はない。

幸村が、そんなお前も綺麗だよ、なんて誉めてくれるからそれでよくて、よくこうして地面を這うのだ。

「今日の水遣りは終わったんだ」

クスクスと笑う幸村の声を聞きながら、それでも心のどこかで「しにたくない」の気持ちが強くて、涙が止まらない。
必死に酸素を吸い込んでは、ろくに二酸化炭素にならない呼気を吐く。
それに、

「まだお前をころすには、足りないだろ?」

もっと濃い、強いユリの香りを想像しただけで、呼吸を止めてしまいそうだった。
















依存系クズ体質


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