※暗いのが病的に嫌いな仁王くん(シリーズもどきを予定)
「そろそろ電気を消しますよ」
「嫌じゃ」
日付を越えた。
外は真っ暗で、私の部屋だけがぽっこりと眩しい箱になっていた。
テスト勉強をするはずがいつの間にか談笑になっていたのにはもう言葉もない。
嘘になりますか、私も加担していたのだから何も言えないのが本音。
そろそろ寝ようかとスイッチに指をかけた時、仁王くんはなんの躊躇いもなくそう言った。
「明日も部活です。もう寝たまえ」
「暗くせんで」
「はい?」
「寝るから。寝るから、電気は消さんで」
意味が分からない。と、リモコン式のスイッチにふと力が入ってあっという間に部屋中が外と同じ色になる。
「失礼、仁王くん」
「…」
さっきまで電気を消すなとごねていた仁王くんからの返事はない。
リモコンをサイドテーブルに置く。
「仁王くん?」
「…」
返事はない。
「仁王くん」
「…っ」
「どうなされたんですか」
目が慣れない。
彼がどうなっているのか全く検討がつかないが、寝てしまった訳ではないようである。
細めるように目のピントを合わせると、用意した布団の上で膝を抱える姿が見えた。
ギョッとするとはこういうコトらしい。
ベッドから降りて彼の前に膝をついた。
「どうしたのです、仁王くん」
「嫌、じゃ…、暗い…のはいやじゃ…っ」
だんだん慣れてきた目には何故だか目をつむって耳を塞ぐ仁王くん。
いやじゃいやじゃ、と繰り返すそれは、妹に連れられて行った遊園地のお化け屋敷の入り口で見た小さな小さな男の子にそっくりだった。
「く、らいの…っ、いやじゃ…っ!」
ぐずるように鼻にかかり始める声が耳に届いてふと焦りよりも別の感情が浮かぶ。
「仁王くん 」
「いやじゃ…、」
「仁王くん、」
「こわい…っ、」
「仁王くん、」
「やじゃぁ…、」
ぽろりと零れた涙が外からの月明かりで一瞬だけ光る。
堪らなくそれが愛しくて銀色の髪を掻き分けて真っ白な額に口付けを落とした。
「や、ぎゅう…?」
目は瞑られたままだったけれど、彼の意識は完全に私に向けられた。
濡れてしまった頬を親指で拭う。
さっきまでの怯えたオーラは消えていた。
柳生:でこちゅーする。