耐えた。
何も見えないように掌で目を隠して、ひたすらに唇を噛んで噛んで。
漏れ出る声はコイツに優越感を与えるだけ。
噛んで噛んで、耐えた。
「声、出してもえぇんやで」
べろり、
何度目か分からない鳥肌が全身に立った。
脚フェチなんて、気持ち悪い。
寝転がった俺の脚を、喰らうようにはんだり舐めたりするコイツも気持ち悪いに違いない。
変態の癖に整いすぎる顔立ちにも、気持ちよく響きすぎる低い声にも、イラついた。
歯は立てない、唇の感触だけがやたらリアルで泣きたくなった。
荒い息は俺のもの。
真っ暗な世界の中で別の生き物に襲われているよう。
べろり、
脹ら脛に舌を感じた瞬間、
「いった…、」
不自然にビクついた俺の体が、いや脚が、忍足の顔の側面をかすった。
「あ…っ、ご、ごめ…、」
思わず目を覆っていた手を退けて謝った。
当ててしまったのだろうか。
俯いたまま微動だにしない。
「おした、」
どくり、と心臓が鳴った。
なんなん、じゃ…。
眼鏡越しじゃないその眼があまりにも鋭くて、固まった。
あ、ああ…、
「やってくれるなぁ、仁王?」
ぎしり、とベッドが鳴った。
あの眼が、忍足の深い、深すぎる色の眼が、
「なぁ、それは俺がキスする時しか外さないのを知っててやったん?」
俺を捕らえた。
さっきまで這っていたような、同じような唇が呼吸を止める。
俺とは違う深い深い色の瞳と、ずっとずっと見つめあったまま、ただただ、俺は
喰われた。