泣いた。


「泣いたった許さんからな」


冷たい言葉が頭上から降ってきただけだった。



最初はただの暇つぶしだった。
あとは、お金も欲しかった。
忍足にぶん投げられて中身の出た鞄で一番大切なのは携帯だけど、やっぱり財布は捨てられない。
一晩立てば少し、もう一晩立てばまた少しだけ財布は膨れた。
罪悪感はなかった、だってただのバイト変わりだったから。
だけど、


「止めんのやったら、もうお前とは切る」

「いやっ、いやじゃぁあっ!」


俺が愛するこのロマンチストには許せないコトだったらしい。

部屋を訪れた途端に壁にぶつかった。
一瞬何が起こったのか理解できなかった体が、頭よりも先に崩れ落ちた。
しゃがみ込む俺の真上から壁を両手で殴りつけた忍足が見下している。
俺はただ縋る。縋る。

いやだ、嫌いにならないで、捨てないで、お願いだから。

綺麗な部屋の床に散らばったのは俺の荷物と、ヤツの眼鏡。
冷たくて痛い視線が刺さった。
片膝で肩を押されて壁に押し付けられる。
食い込む膝頭が痛い。
血の流れが止まってしまうんじゃないかと思うほどの強さ。
呻き声をあげる他にやるべきコトはなかった。
見上げる首が、痛い。


「自分、誰が好きなん?」

「お、おしたり…」

「俺、言うたよなぁ 。俺以外を見るヤツは要らんって」

「お前さんだけ、お前さんだけしか見とらん…!」

「俺なぁ、」


深い目の色に、吸い込まれて消えたい。
くすりとも、にこりとも、にやりとも笑わないまま、


「汚いヤツは嫌いなんや」


絶望的な言葉を吐く。
痛覚がなくなってしまったのかというくらいに血の気が引いた。


「い、やじゃ…。捨てんで、見放さんで」


嫌いにならんで、捨てないで、捨てないで捨てないで!綺麗になれるんだったらなんでもするから、忍足の好きな綺麗になるから!

叫ぶように言うと、ふぅん、と気のない返事だけが返ってきた。
いやだ、捨てられたくな、い。


「消毒、してやってもえぇで」

「消毒、」

「汚いところは消毒すりゃいい」

「忍足が、綺麗にしてくれるんか…」

「あぁ、」


消毒して、と呟くと、背中は壁から床に移された。
揺らぐ視界の中で捉えたヤツのために、綺麗になります。











フォロワさんネタ提供ものの別バージョン。
無自覚くそびっちな仁王くんはとっても可愛いと思うんです。


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