※柳生宅捏造





2階の自室からお天気な空を確認してから、ふと道路に目をやって気づく。


「あれは、仁王くん?」


門扉の影に隠れてはいるが、あのちんまりと丸まる姿。
どうやら仁王くんのようだ。
しきりに左右を見渡して、まるで誰かを待っているよう。
声をかけた方がいいのでしょうか。
いや、もしかしたら待ち合わせをしているのかもしれません。
余計な口を挟んでは無粋というもの。
しかし、なんとなしやはり気になるので少しの間、彼を観察するコトにした。



5分くらい経ったでしょうか。
一向にその場には誰かがくる気配がない。
仁王くんはただソワソワと道の両方を交互にみている。
大きな買い物袋を下げた女性や、自転車で走り去る男性が通ったものの、彼は微動だにしない。
アリやチョウチョでも探しているのでしょう。
観察を止めにしようとした瞬間、今まで膝を抱えて丸まっていた仁王くんが勢いよく立ち上がったのが見えた。
耳と尻尾がご機嫌そうに動くのが薄ぼんやりと分かる。
珍しいコトもあるものです。
仁王くんの見つめる先を見やると茶髪で清潔な格好をした若い男性が歩いていた。
最近、仁王くんにもお知り合いが増えてきたコトを思い出して口元が緩むのが分かった。
彼が楽しそうでなにより。
男性はまだ気 づかないのか、はたまた痺れを切らしたのか、仁王くんは男性に向かって走り出していた。


「やーっぎゅっぎゅっぎゅぎゅっ!」


ぎゅっぎゅっと、何か不思議なコトを叫びながら走るものだから男性も気づいたように顔を上げて、
おや?


「ぎ、ぎぅ〜じゃ…っ!」


何故か仁王くんは男性を通り越して電柱にしっかと抱きついていた。
ぐりぐりと頭を抱きついた電柱に擦り寄せている。
男性は何事かと仁王くんを見て、謎な行動に少しだけ笑ってその場を去っていった。
人の気配がなくなったのが分かったのか、そろりと顔を上げた仁王くんは頭をかいた。
もしかして、





「仁王くん」

「や、やーぎゅ!」


急いで1階に降りて窓から声をかけるとまん丸な目がもっとまん丸になった。
庭に呼べば、きちんと門扉を開けて入ってくる。
とてとて、と少し早足だった。


「なんで、おうちにおるじゃ。おでかけしたんじゃなかと?」

「私は今日出掛けてなんていませんよ」

「…ぷりー」


つん、と口を尖らせてそっぽを向いた仁王くんを見て確信する。


「私の帰りを待っててくださったんですね」


ありがとうございます。ですがちゃんと人の顔は見てくださいね。
ぽふん、と触り心地のいい髪を撫でる。
仁王くんは人違いをしてしまったようだ。
いつもの飄々とした子猫な彼からは想像も出来ない失敗談に少しだけ笑う。


「ち、ちがうなり!あの柱が冷たくて、きもちよさそうだっただけじゃ!」


真っ赤になって言い訳する彼が、ここ最近で一番猫らしいと思った。










猫さんが失敗した時、それがさも自分のしたかったことです的な反応が可愛くて可愛くて。


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