※柳生母登場



「あら、まさはるくんいらっしゃい」


玄関を開けると、リビングからひょっこりと母が顔を出した。
仁王くんが会釈するのを感じながら靴を脱いだ。
何度かうちに来ている仁王くんは母のお気に入りだ。
どう頑張っても真面目には見えない彼だが、母曰わく「ウチにいないタイプ」だからだそうだ。…血は争えない。

いつもならば夕飯はまさはるくんの好きなものを。まさはるくんの好きな飲み物を。なんて世話を焼く母だが今日は少しばかり焦り気味。


「ごめんなさいね、まさはるくん。今日は同窓会で出掛けてしまうから」

「お構いなく」


そう、今日は高校の同窓会なのだ。
もう少し早く家を出ていると思っていたんですが…。
ずれたメガネを押し上げる。
父は夜勤、妹は修学旅行中。
滅多にないこの一人っきりの日に、テスト勉強を理由に仁王くんを連れてきた訳だ。
ほどなくして母は仁王くんに手を振りながら出掛けていった。


「ゆっくりしていってね、まさはるくん」

「ありがとうございます」


閉まるドアと門扉が開閉する音を聞いてから、仁王くんがこちらを振り返る。


「…なんじゃ柳生。さっきから俺のコト見つめよって」


じっとりとこちらを睨むように見る目はまるでさっきまではとても居心地が悪 かったとでも言いたげ。
なんでもありません、と声をかけて、冷蔵庫から飲み物を取り出した。




母はいつも言う。
まさはるくんもうちの子になってしまえばいいのに。と。
毎回一瞬ぎくりとしながらも笑ってごまかす。
うっとりとしながら妄想を繰り広げる彼女を見ると、母親ながらに少しもやりとした感情が湧く。
もやり?


「ひゃっ!な、なんじゃ柳生!いきなり抱きついてきおって…!」


目の前の猫背気味な背を抱きしめた。
もやり、


「柳生、」


もやり、


「柳生?」


もやり、


「柳生!」


もやり、


「おい、比呂士!」


パッと目が醒めた気がした。
抱きしめていた力が弱くなって、背中から抱きしめていた仁王くんがこちらを向いた。


「どないしたんじゃ」

「い、いえ別に」


金色の目で見られるとなんだか居心地が悪い。
逸らそうとすると頬をその白い手で挟まれて阻止される。


「別にじゃなか。変。今日、なんか変じゃ」


徐々に喉元に上がってくる言葉を飲み込みながら、いいえ、と嘘をついた、はずだった。


「ま、さはる…くん」

「え…っ」


どうやら我慢が出来なかったらしい。
探るようにこちらを見ていた目がだんだんとまん丸になっていった。
やってしまった。と思う反面、嬉し恥ずかし 。
きっと私は彼の名前を呼びたくて、簡単にその名前を呼んでみせる母にまで嫉妬していただけなのだ。


「まさはるくん」

「…」

「雅治、くん」

「…」

「雅治くん」


「…も、なんじゃっ、比呂士!」


俯いても隠しきれない真っ赤な耳にもう一度だけ彼の名前を落とした。











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