貰えないならうばっちゃえばいいじゃないか。
「ゆ、きむら…、止めんしゃい幸村」
いいじゃないか。俺にくれたって。
部室で寝ていた仁王をわざと起こさないでおいてあげた俺に感謝してよ。
一定の距離を取ろうと下がる足が無性に苛ついた。だから。
「…っ?!」
バランスを取るために空を切った左手に口づけた。
ぱしり、と振り払われた手が痛かったけれど、きっと気づいていない彼の方が可哀想。
「、俺が、何をした…」
「仁王が何をしたかって?」
一歩一歩、下がった先は、
「俺はね、」
壁にぶち当たったコトすら気づけずに床に沈んだ仁王と視線を合わせる。
「仁王が好きなだけ」
嗚呼、その絶望的な顔も好き。
「仁王が好きって言ってくれればそれでいいんだ」
金色の目が歪んだのも綺麗。
「それだけなのに」
その綺麗な目の上に、瞼に口づけた。
よかったじゃないか、最後に見たのが俺で。
幸せ者じゃないか。
「、ご、めんな、さい…、ゆきむ、ら、ごめんなさい」
きっと霞む視界で俺を見たんだろう。
ぽろり、と綺麗な涙を零すから、それを救いだす。
嗚呼、どこもかしこも綺麗なのに。
どうして好きだと素直に言えないんだろうね。
そうか、
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、」
もしかしたら俺以外に何か言われたのか。
なぁるほど。
じゃあ、
「お前はね、」
その形のいい耳に口を寄せて、
「俺だけ愛せばいいんだよ」
口づける。
仁王が泣いた、嬉し泣きした。
「許して、幸村許して…っ、ごめん、ごめんなさいぃ…っ」
ほぅら幸せ者だっていうのに、嬉し泣きするくらいなら、
「ごめんなさいよりも、」
その「ごめんなさい」は食ってしまおう。
「愛してるの方がいいな」
部室が静かになった。