かつん、

「ぴよぉ…、」

1つ鳴いて、吊革がぶつかった額を抑えた。
電車の中で寝ると、すぐこれだ。
人波に流されるがままにホームに降りた。
寝起きの頭はぼんやりしてなかなか冴えない。
降りる駅ぎりぎりに起きるからまた質が悪い。
いっそ寝過ごしちまえば楽なのに。
くあ、っと欠伸を零してから漏れ出る息を噛んだ。
嗚呼、酸素が足りん酸素が足りん。
ぐだぐだと歩きだせば、色んな人がぶつからないように気にしながらぶつかって行った。



「練習に遅れるぞ、仁王」

ぱふっと頭を叩かれて思わず一二歩足が絡まった。
横を爽やかに通り過ぎていった参謀を恨めしく睨んで、すぐに追いかけた。

「なにすんじゃ」
「朝練に遅れてはいけないからな」

こんなにもぐだぐだな朝なのに、見えているのかいないのか分からない目がやたら涼やかだった。

「あったま、痛いぜよ」
「頭痛か?」

首を横に振る。
参謀に叩かれたトコが痛いんじゃ、と言えば呆れたように笑い声。
その目がなんだか悔しくて、悔しくて。

「あったま痛いのぅー。参謀には叩かれるし、吊革にはぶつかるし」

かつん、とぶつかった吊革を思いだした。

「吊革にも頭を叩かれたのか」

くつくつと笑う声に、失言だったと少し後悔。くそっ。

「頭痛いのぅ」
「そこまで言うなら仕方ない。俺が治してやろう」
「参ぼ、」

傾いた頭と、それに引っ張られた体、思わずまたフラついた。
少しだけ、ほんの少しだけ俺より高い身長。
その体にぶつかる直前に見たのは、
綺麗に結ばれたネクタイだった。



「ぴ、よ…っ!」
「どうした?」

くつくつと笑う参謀を見ながら、思わず額を抑えた。
生々しすぎやしないか。
せっかく朝からセットした髪も、今日は寝痕がつかなかった顔も、全部全部参謀に持って行かれた。
真っ赤になった頬も隠せずに唇が落とされた額をひたすら抑えた。





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