「大分散っちゃってるッスねぇ」
「そうだね」
桜を見上げて、はー、とため息にも感嘆にも取れる声を漏らす黄瀬の隣に並ぶ。
花見に行こう。そう誘われたのは、お花見客の足が大分遠退いた頃だった。
降るように散る桜が強い風に舞いあげられて雪のようだった。
一層強い風が吹くと、黄瀬の長めの髪が流されるように乱れる。
せっかくセットしたのに、と髪を押さえつける様子がなんだか面白くて小さく笑えば、笑わないで欲しいッス、なんて拗ねられてしまった。
「すまない。他意はないよ」
「…いーッスよー、別に」
ふい、と明らかに拗ねた顔が横を向いた。
今まで隠れていたあたりが見えたおかげで小さな花びらが黄瀬の髪に隠れるように絡まっているのに気づく。
「黄瀬、少し屈んでくれないか」
「…ご機嫌取りなんて要らないッスよ」
ツン、とそっぽを向いたまま。
一度止んだ風に煽られて桜の花びらがまた舞い始める。
乱れるほどではないけれど、目の前の金色の髪もさらさらと揺れた。
「そう言うな。ほら、」
小さく腕を引けば、なんなんスか…なんて一人ごちながら膝を折る。
その頬は何故かうっすら赤い。
身長の大きな黄瀬の頭が手の回るところまでやってくる。
空いている方の手をゆっくりと伸ばすと、きゅ、と目が閉じられた。
「取れたよ」
「…へ？」
髪を掬うようにとけば、絡まった花びらはひらりと地面に落ちる。
少しだけ崩れた髪型を押さえるように直してやれば、ぱっちりと開いた目と目が合った。
「えっと…、赤司っち？」
「なんだい」
「しないんスか？」
「なにを？」
えぇと、そのぉ、
しどろもどろになる黄瀬に首を傾げながら髪に花びらがついていたよ、と言えば、先程とは比べ物にならないくらいにその顔が赤く染まった。
「どうしたんだい？」
「な、なんでもないッス！」
折った膝を伸ばそうとするのを腕を掴んだ手を引くコトで阻止する。
視線を合わさないようにしているつもりなのか、泳ぐ視線に今度は口許だけで笑って。
もう一度金色の髪に手を伸ばし、そのまま引き寄せて額にひとつキスをした。
「まさかとは思うが、こうされたかった？」
唇を噛んで眉を寄せて。
でもどうやら苛立ちや不快感ではなさそうだ。
「やっぱり赤司っちはずるいッス…」
もごもごと動く口から漏れた言葉を聞き逃さないようにもう一度距離を詰めた。
赤司くんと(乙女っぽい)黄瀬くん。乙女っぽくないのもほしい。