電車を待つ間に目の前にあった広告を、ただぼんやりと見つめながら、いつもの彼とはやはり違うな、と首を捻った。




「黒子っち、みーっけ」

日当たりのいい書架の背には一人がけのソファがあるコトを多くの人は知らない。
暖かい日差しにうとうとしていた意識を引き戻したのは、小さな、それでいて耳にしっかりと届く声。
くすくすと笑っているのが分かって、ムッとしながら瞼を開けた。

「何がおかしいんですか」
「なんも。やっぱりここにいたなーって」

ただでさえ高い身長の彼と、椅子に座ったボクとの距離はとても遠い。
見上げた黄瀬くんの髪が窓から入ってくる光を透かして、黄色を通り越して金色に見えた。
ふと、さっき見た広告が頭をよぎって、なんとなく視線を膝の上の本に落とす。

駅の大型の広告板にはそれはそれは大きな広告が出ていた。
暗い書架に、明るい窓、そして一冊の本を手に持って憂い気な微笑で視線を送るのは、モデルの黄瀬くんだった。
なんだかな、と首を捻ったばかりだったというのに、今の状況はまるでそれと同じではないか。(もちろん黄瀬くんは本を読むために図書館に来ているのでないのは知っている。)
あの憂い気な顔が忘れられない。
いい意味ではない。黄瀬くんではない人に見えてしまったのだ。

「黒子っち、黒子っち」
「…はい?」
「怒ってる?」
「…は?」

しゅん、と項垂れた黄瀬くんを見て、なぜ?ともう一度首をかしげるしかなかった。
先程笑ったのを反省してるだの、時間通りに見つけられなかっただの、まるで検討違いなコトで彼は一喜一憂していたようだ。
怒られた犬そのもので、思わずくすりと笑ってしまった。
膝に広げていた本を少しだけ立ててから、黄瀬くん、と彼の名前を呼んだ。

「君に見せたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
「ほら、」

軽く本を持った手を持ち上げれば、その大きな体を丸めて本を覗き込む形になった。
その隙を逃してしまわないように、本を支えていた手をすぐに頬に添えてそのままキスをした。
触れるだけの、優しいものだ。
ゆっくりと唇を離して閉じていた瞼を開ける。

「そっちの方が似合います」

今度はボクが笑う番だった。
口許を抑えた手では隠しきれるはずもない。
困ったように寄せられた眉も、どうしていいのか分からないように泳ぐ目も。
手を伸ばして、そっと口許を抑える手を捕らえて下ろす。

「真っ赤、ですね」
「〜っ!黒子っちぃ…!」

がばり、と抱きついてきた黄瀬くんに声が大きいですよとひとつ注意をして、その背中を撫でた。














モデル黄瀬を見た時の反応ー黒子

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