※マフィアとかそういう系設定










ねぇ、知ってる?あの、
なぁ聞いた?あそこの廃墟、
あ、お前さ、知らないだろ、

一つ息を吐いて、ずれかけたイヤホンを耳に押し込む。

「(うるさい)」

人の噂話っていうのはすごく疲れる。
悪口、陰口、嫌な話。
そういうのに限ってうるさいもんだ。

ねぇ、モデルの黄瀬涼太って、

そんな声が聞こえて、慌てて頭を振る。
周りには誰もいない。きっと、建物を挟んだ通りの声。
オレの耳は聞こえすぎる。
全部が全部聞こえすぎる訳じゃない。
人の声だけ。特に噂話はよく聞こえる。
小声のはずのそれは何故だか拡声器に通したようにすごく大きい。
諜報員としてはありがたい能力だけど。
こうしてイヤホンを突っ込んでいないと、日常生活中に、うるさい!と叫んで発狂しそうになる。


あぁやっぱり。
思わずその場で立ち尽くす。
根も葉もない噂ってのが多すぎる。
きゃいきゃい騒ぐ女の子の声が耳に痛い。
それ、嘘だよ。と言えたならどれくらい楽なんだろう。
噂話をしていたら本人登場ドッキリ大成功!みたいな感じになるんだろうか。
噂は噂。ゴシップ誌だって連載しない。それと一緒でオレの噂も時間潰しなだけだ。
ボーッと狭い空を見上げていると肩を叩かれた。

「黒子っち」
「…毎回言ってますが、もう少し危機感を持ってください」

死にますよ。呆れ顔でそう言った水色の少年を見下ろす。
イヤホンを外してへらり、と笑えば少しだけ眉間にシワが寄った。(あ、バレた。)

「またですか」
「あー、うん。まぁ、ね」

分かってるんス、ダイジョーブダイジョーブ。噂は噂。ただの嘘だし、すぐ消える。いちいち落ち込んでてもキリないって。モデルなんてやってるんだから、ポーカーフェイスくらい余裕ッス!

ダイジョーブ!と握りこぶしをあげて見せると、黒子っちはいつもの無表情で嘘つきですね、と呟いた。…聞こえてるよ、それ。

「ぶすくれないでください」
「じゃあ、意地悪しないで欲しいッス…」
「別に意地悪しているつもりはありません」

黄瀬くん座ってください。ポンポンと指定されたビールケースに腰を下ろす。
低いそれに腰掛けると一気に黒子っちを見上げる形になった。
新鮮な光景だ。
そう思ったのと、頭に手が置かれたのは同時だった。

「きっと君には、噂なんて気にしなくていいと言っても無意味なんだと思います」
「え?」
「だから言い方を変えます」

黄瀬くんはバカですから。
ケロッと言って退けた黒子っちにツッコミを入れようとしてやめた。
今は見上げても、頭の上に乗せられた手のせいで黒子っちの表情が見えない。

「辛い時は辛いと言っていいんです」

聞こえてしまうのが君の苦痛なら、それを抱え込まないで。嘘だと言えないなら、嘘だと信じてくれる人を頼ればいい。

「ボクらはいつだって君を信じてますよ」

たった一人で突っ立っているより、幾分楽になるかもしれません。
ワシャワシャッと髪を掻き乱してから離れた手の先。
仕方ないな、と笑う黒子っちは太陽を背にしていて眩しかった。

(あー、太陽が目にはいる。泣いてないし。)










聞こえすぎる体質の黄瀬くんは諜報部員

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