初めて靴を隠されたその日から、わたしの靴は度々なくなった。もう何度隠されたかわからない。犯人を捜す気にはなれない。犯人を見つけたところで、その人に向かう勇気なんてないのだから。今日は朝内履きの靴がなくなっていた。空きの下駄箱を覗いてみたりしたけどなかなか見つからない。おかしいな・・・。いつもなら五分くらいで見つかるのに。


「木村さん」
「わっ!く、黒子くん・・・?」
「これ、木村さんのじゃないですか?」


黒子くんの手には木村と書かれた学校指定の内履きがあった。それは紛れもなくわたしのもの。目に入った瞬間から、心臓の鼓動が速くなるのがわかった。


「どうして、それを」
「朝練してたら2号が持ってきてくれたんです」


2号・・・バスケ部で飼ってる犬のことだ。でも、どうして?どこにその靴があったの?なんで2号がわたしの靴を見つけてくれたの?というか、知ってしまった。黒子くんは、わたしの靴が隠されていること、知ってしまった。ずっと秘密にしていたのに。わたしが嫌われ者だって、黒子くんに思われてしまったら、もう普通に接してなんてもらえないと思うから、ずっと黙ってた。わたしが動けないでいると黒子くんは靴をわたしの足もとにおいてくれ、言った。「あの日から、ですか?」初めて一緒に帰ったあの日、何も聞かないでいてくれたことが、どんなにわたしを救ったか。日々元気をなくしていくわたしに、黒子くんは「大丈夫ですか?」と言うだけで、理由を聞かないでいてくれたことが、どんなにわたしを助けてくれたか

黒子くんは気づいているのだろうか。いつもと変わらないでいてくれたことが、わたしにとって、どんなに嬉しかったのか、気づいているのだろうか。

でもそれはもう、終わりらしい。いつまでも隠し通せるわけがなかった。わたしと犯人の攻防は追いかけっこのように続いているんだから。犯人が止めない限り、いつまでもわたしの靴は行方不明になる。


黒子くんはキリっとした瞳でわたしを見据え、言い逃れはできないようだった。観念しました。


「黒子くんと帰った日から・・・」
「いったい誰がこんなことを」
「わからないんです」


黒子くんは少し怒っているようで、そして悲しそうで、これから先、いつもみたいに接してくれなくなってしまうのかな、なんて思った。嫌がらせされてる人とわざわざ一緒に居ようとなんてしないだろう。ひとりぼっちに逆戻りかな。これ以上一緒に居たら、黒子くんに迷惑かけちゃうかもしれない。黒子くんの株が下がってしまうかもしれない。そんなの嫌だ。ひとりぼっちになるのより、黒子くんに迷惑かけちゃう方がもっと嫌だ。だから、黒子くんを置いて一人で教室へ行こうと歩き出す。すれ違いざまに黒子くんに腕を引っ張られ、思わず振り返った。


「次また隠されたら、黙ってないで教えて」

そんな真剣な目されちゃったら、ハイって言うしかないじゃないですか。黒子くん。


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