分かっていたことだけど、黒子くんて、そんなに背、高くない。だからなのか、いつもわたしの後ろの席に座っているから、なのか、二人きりで帰るというシチュエーションなのにわたしは全くと言っていいほど緊張していない。目線が近いから、かな。学校にいたときは泣きそうで仕方なかったけど、一度引っ込んだ涙はそうそう出てくることはない。泣きそうなわたしを黒子くんは見ていたはずだけど、その理由を聞かないでいてくれた。靴隠された、とか知っちゃったら引かれちゃうかな・・・。秘密にしよう。聞かれないし、言いたくない。せっかく黒子くんと挨拶交わしたり、話したりできるようになったのに。それができなくなってしまうなんて、そんなの嫌だ。

黒子くんは口数が少ない。わたしもそんなに多くないから、二人で帰ってるのに、沈黙ばかりが続く。そういえば席替えして前後になった時も、自己紹介してすぐに沈黙になったなぁ。あの時はすごく緊張してた。というかびっくりした。黒子くんは優しいなぁ。誰に接するのも同じようにしていて、差をつけたりしない。そんなことできる人、なかなかいないと思う。すごいなぁ。


「木村さんて、偉いですよね」
「えっ」


彼はきっと空気読めないというか空気読まないんだろうなぁ。何も会話ないところにどこから引っ張り出してきたかわからない話題を振ってくる。しかもその話題がわたしが偉いときたもんだ。わたしは全然偉くないし、普通。


「えと、あの・・・。偉くないです。黒子くんの方が偉いと思います」
「ボクは偉くないですよ」
「偉いですよ!だって・・・」


「わたしなんかに優しくしてくれるし」わたしがそう言うと黒子くんは歩みを止めた。わたしもつられて立ち止まると、黒子くんはまっすぐ、わたしのことを見据えて言った。「わたしなんか、じゃないですよ」


「木村さんは誰もやりたがらない保健委員に立候補したり、ボクや小池くんに宿題を教えてくれたりして、とても優しい人です」


黒子くんって、こんなに饒舌だったっけ。
自分が褒められているという事実が受け入れ難く、そんなことを考えていた。
黒子くんは喋り終わると、再び歩き出した。わたしより三歩先を行ったところで、振り返って「バニラシェイク、飲みに行きましょう」と言った。いつもわたしの後ろにいる黒子くんが、今はわたしの三歩先に居る。そのことが新鮮で、わたしは黒子くんの横に並ぶことをためらった。たまには後ろ姿の黒子くんを眺めていたい。街路樹の銀杏が黄色に染まっていく。秋の暮に黒子くんの背中はよく映えた。


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