定期テストで黒子くんが良い点数を叩き出した。――現代文だけ。


「す、すごいですね」
「現文だけは昔から得意なんです」
「スゲェな黒子。俺は散々だったよ」
「小池くんはすぐに居眠りしていましたしね」
「見てたのかよ!」
「チラッと見ました」
「あ!わたしも見てました」


小池くんは悔しそうに、「くっそー黒子は同志だと思ってたのに」と呟いて机につっぷした。小池くんは赤点をギリギリでまぬがれたようだったけど、嬉しくないみたいだった。絶対赤点だーなんて言ってたけど、そんなことなかったんだし、良かったんじゃないだろうか。


「黒子くんも赤点なくて良かったですね」
「これで心置きなくバスケに集中できます」
「またそのうち大会あるんですよね?頑張ってください」
「冬に大きい大会があるんです。頑張ります」
「木村ー次のテストのとき勉強教えてくれー」
「嫌ですよ。小池くん一人でやってください」
「ヒドイ!」
「あはは」


こんなやり取りも楽しくて、ようやくわたしのスクールライフとやらも軌道に乗り始めた。

ように思われた。





「あれ?」


帰ろうと自分の下駄箱を開いたとき、その場所からあるべきものがなくなっていることに気がつく。というか気がつかない方がおかしい。わたしの下駄箱は空っぽになっていた。朝登校してきて、ちゃんと靴入れたはずなのに。体育で使う運動靴もなくなっている。体がサッと冷たくなって、その場から動けなくなった。

嫌がらせだ。―――たぶん。

しばらくたって動けるようになり、よくよく探してみると、誰も使ってない空きの下駄箱にわたしの靴があった。でも、見つかったけど、悲しかった。靴は勝手にわたしの下駄箱から脱出して、歩いて他の下駄箱に入ることなんてしない。誰かが意図的にわたしの靴を移動させた。そのことが悲しかった。わたしには友達と呼べる人は居ないはずで、クラスでもひっそりと過ごしているのに。目立たないようにしているのに。関わる人は黒子くんと、小池くんと、たまに火神くんだけなのに、なんで、こんな


「どうかしたんですか?」


今まで身に降りかかったことのないことに茫然としていて、周りに気を配っていなかった。だから誰かが近くに来たことなんて、全然わからなかった。ハッとして振り返ると、そこにはいつもわたしの後ろの席に座っている黒子くんが立っていた。


「何でも ない  です」


涙をこらえるのに必死になって、垂れそうな鼻水を隠すために手で顔を隠す。傍から見たらただの変な人だ。でも黒子くんに見られたくなくて。見ないで、見ないで、知られたくない。


「・・・そうですか」


黒子くんは追及しなかった。関わることが面倒臭かったのか、わたしの心を見透かしたのかは分からない。下駄箱から靴を取り出した黒子くんはわたしの横に並んで、「途中まで一緒に帰りませんか」と聞いてきた。わたしが何も言えずに黙っていると「隣に歩くことが嫌だったら、僕は木村さんの後ろを歩きます」と言った。その姿を想像したらなんだか可笑しくて、涙よりも笑いが込み上げてくる。黒子くんは、不思議な人だなぁ。

手で涙を拭って、思いっきり鼻を啜って「わたしで良かったら一緒に帰りましょう」と言った。
心無しか黒子くんは笑って、小さく頷いた。


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