時計の針は5時。わたしが小池くんに黒子くんを呼び出すようにお願いした時刻。1分が過ぎ2分が過ぎる。ドキドキが加速していって、椅子に座るわたしの足は震え、わたしの手は汗でじっとりと濡れていた。もしかしたら、黒子くんは、来ないかもしれない。そんな考えがわたしの頭をよぎり始めたころ、教室のドアが開く音が聞こえた。

ガタタ

勢いよく立ち上がり、音のした方を見ると、そこには驚いた顔をした黒子くんが立っていた。わたしと目が合った瞬間に踵を返し、走りだそうとする。「待って!」精一杯の声で黒子くんを引き止めると、黒子くんは足を止めて教室の中に入ってきた。


「呼び出したの、木村さんだったんですね」


黒子くんはわたしを見ずに言った。きっと小池くんがいると思って教室に来たのだろう。しかし教室にいたのはわたしで、黒子くんは逃げようとした。逃げる・・・間違いなくわたしを避けている証拠だ。胸が痛い。痛すぎる。好きな人に避けられるって、相当堪える。


「ごめんなさい。黒子くんはわたしが呼んだら来てくれないと思ったから」


黒子くんはまだ逃げたい様子。だってさっきから一度もわたしの方を見ようとしない。でも、逃げられるわけにはいかないんだ。伝えたいことがあるから、黒子くんに聞いてもらいたいことがあるから。緊張しすぎて、心臓が今までで一番働いている気がする。これ以上は体が持たないんじゃないの・・・なんて一抹の不安を抱え、口を開いた。ドキドキで死んじゃう前に、黒子くんに伝えたいことがある。


「わたしの話を、聞いてください」
「イヤです」
「即答!?」


黒子くんはきっぱりと拒絶をした。それはもうきっぱりとばっさりと。でもそんなことでわたしの気持ちは止まらないのだ。恋なんてエゴだってどこかのミュージシャンは歌っていたから。


「聞いてください」
「イヤです」
「聞いてください」
「イヤです」
「聞いて!」
「イヤだ!」
「好き」
「いや・・・え?」


もう泣きそうだ。心臓が動くための潤滑剤は涙ですか?もしそうなら喜んで泣くよ。ドキドキしすぎて死んじゃうなら、涙で心臓が動きやすいようにするよ。だから死なないで。わたしの中の黒子くんへのきもち。


「いつも、わたしのうしろにいてくれて、気づいたら、いつもいてくれて」


そばに、いてくれて。

どんなに心強かったか。折れてしまいそうなときにいてくれたことが、わたしの支えになっていたこと、黒子くんは気が付いてる?大きな手で頭を撫でられたとき、わかったの。黒子くんがいつもいてくれたから、全然わからなかったけど、わかったの。いつもいてくれたことが、どれだけわたしを幸せにしたか、思い知ったの。

初めて後ろの席になって挨拶してくれたこととか。わたしが居眠りしちゃって先生に問題の答え聞かれたとき、ツンツンして起してくれたこととか。宿題のヒント教えてくださいって言ってくれたこととか。現代文の勉強の仕方教えてくれたりとか。靴隠されたときとか。女の子に囲まれちゃったときとか。いつも黒子くんがうしろにいてくれたの。そのことがすごく大切なことだったんだって、わかったの。


「黒子くんが、好きです」


好きしか言えない。
言いたいことは山ほどあるけど、全部ひっくるめたら好きしか言えなかった。伝えたら、心臓の動悸はおさまって、幾分か落ち着きを取り戻した。もしかしたら好きが言いたくてパンク寸前だったのかもしれない。


黒子くんはやっとわたしのことを見た。ここのところずっと黒子くんとまともに喋ってなかったから、目を合わせるのは久しぶりだ。黒子くんは目を丸くして驚いているようだ。


「ボクのことが好きなんですか?」
「はい、好きです」
「本当に?」
「もう3回好きっていいました。これで4回目です」
「小池くんと付き合ってるんじゃないんですか?」
「え?小池くん?付き合ってない、ですけど」


黒子くんは腰が抜けたようにヘナヘナと床に座り込んだ。慌てて駆け寄ると「なんだ・・・」と安心したようにへにゃっと笑った。笑った顔も好きだなぁ、なんて思って、黒子くんと同じように座り込むと、黒子くんはわたしの両目をしっかり捉えて言った。


「ボクも木村さんが好きです」


さっきもう泣きそうって思ったけど、今度こそ泣いた。


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