その後わたしの靴が隠されることはなくなり、そしてクラスメイトたちと仲良くなることもなかった。だけど黒子くんと小池くんとたまに火神くんとは、前と変わらずに接している。わたしの靴を隠していた彼女たちはわたしを避け、目を合わせることもない。できることならみんなと仲良くなりたかったんだけど、それはどうやら不可能らしい。

そしてついに文化祭当日―――


「ププ・・・黒子似合ってるぞ」
「小池くんは制服なんですね」
「俺は呼び込みだからねー」
「木村さん似合ってますよ」
「そ、そうですか・・・?」
「うん!似合ってるぞー!」
「貞子になりきって見せます!」
「頼むよー!んじゃ後でな」


小池くんはわたしたちに手を振り、ウインクのおまけまで付けて走って行った。
ついこの間までは黒子くんと二人きりでいても平気だったのに、小池くんがいなくなって二人きりになった瞬間、わたしの鼓動は早くなり、緊張してしまう。ドキドキがうるさくて、もしかしたら黒子くんまで聞こえちゃうんじゃないかと、心配した。チラリ、黒子くんを見るといつもの表情。こんな風に緊張したりするのは、わたしだけみたいだ。


「持ち場に行きましょうか」
「そうですね」


好きだと実感してから、上手に喋られなくなった。
誰かを好きになるって、こういうことなのかな。








わたしはお化け屋敷の中腹の井戸のところへ、黒子くんは出口に近い墓地へ向かった。意外とホラーハウスは大盛況。女性客が多いところを見ると、小池くんがたくさんの女性客を引っ張って来ているんだろうと予想した。さすがは一年の中でも上位を争うイケメンだけある・・・。


『キャーこわーい』
『大丈夫だよ、俺がついてる』


おっとお客さんが来たようだ。もう何度も井戸から這いつくばって出てきたから慣れてきた。みんなも一度は貞子を見たことがあるだろうに、わたしが登場すると泣き叫んで逃げて行くから面白い。そんなに怖がることないのに。そろり、そろり、と井戸から這い出てくるわたしを見つけたおそらくカップル達は一瞬固まり、そして怯えた顔になった。


『ギャ――――!!!!』
『え?ちょ、ちょっと先逃げないでよ!!』


よし、これでおしまい。また次のお客さんが車で持ち場で待機。雰囲気をつくるため、ガンガンにクーラーをつけているため、わたしの手足は冷えて凍えてしまいそうだ。あったかいココアが飲みたいなぁ。


「よっ!」
「きゃ―――!!!」
「木村!俺だって俺!」
「・・・小池くん?」


お客さんがいないからと気を抜いていたら突然話しかけられ、驚いた。薄暗いから視界は悪いし、こんな登場の仕方はなしだと思う。小池くんは両手で自分の耳を押さえていたところを見ると、わたしはかなり大きな声を出してしまったらしい。恥ずかしい・・・。


「俺がびっくりした」
「わ、わたしだってびっくりしました」
「さっきの客で午前の部は終了!ハイお疲れ」


ポンッと何かを投げられ、慌てて手を伸ばしキャッチする。小池くんはナイキャッチーと楽しそうな声で言った。


「ココア!ありがとうございます!」
「いえいえ」
「飲みたかったんです」
「木村はよく働いてくれているからね、ご褒美!」
「頑張って貞子してます!」
「なにその、貞子してますって。ププ」
「なりきってるんですよ。あ、黒子くんどうしてますかね?ちゃんとお客さん、黒子くんに気づいてくれますかね?」


ほら、だって黒子くん影薄いから・・・。好きな人相手にそんなこと言ったら失礼か、ゴメンナサイ。でもこんな薄暗い中に居たら、いるかいないか分からないくらいになってしまいそうで。


「黒子?あ――・・・」
「? どうかしたんですか?」


小池くんの顔から笑顔がスッと消えた。歯切れの悪さが気になり、小池くんの顔をまじまじと見つめる。宙に浮いた小池くんの視線は苦笑いとともにわたしのところに来て「頑張ってるよ。多分アイツが一番怖がらせてる」と言った。普段の小池くんと違う感じがして、心配になる。わたし、嫌われるようなことしたっけ。


「ねぇ、木村はそんなに黒子が気になるの?」
「え?」


もしかしてばれてしまった?わたしが黒子くんのこと好きだって、小池くんに気づかれちゃった?


「俺、木村のこと好きみたいなんだけど」


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