吐いた息が白かった。空を見上げると雲は重たそうで、今にも雨が降ってきそうだ。これだけ寒かったら雪でも降るのかな。どっちにしろ雪の降ってくる前に家に帰らなくちゃ。

玄関の前に付き、鍵を解除する。ドアノブをひねって開けようとするけど・・・扉が開かない。明らかに鍵がかかっている。いや、いまわたしちゃんと鍵開けたよね?いやな予感がして、もう一度鍵を開ける。今度こそドアは開くはずだ。


「遅かったね」

ドアを3センチ開けたところで中から声が聞こえた。声だけで誰だなんてすぐわかるけれど、とりあえず顔を見るまでは黙っておく。だってなんでここに奴がいるかわかんないし、それにわたしのいないうちに部屋にあがりこむなんて信じがたい行動だ。最低な男だ。アポなしで来るなんて何様だ。
わたしが返事をしないので不審に思ったのか、奥から奴が歩いてくる音が聞こえた。


「なんだ、あみじゃん」
「なんだとはなによ、臨也のくせに」
「臨也のくせにとはひどいなぁ」


くくくと彼は背中を丸めて笑った。どこが可笑しかったのか分からないわたしはため息をついて、ブーツを脱ぐ。さすが室内、外で白かった息は、いまはもう白くない。


「来るなら来ると言ってくれたらよかったのに」
「だってほら、突然の方がうれしくない?」
「全然、まったく、これっぽっちも嬉しくない」
「またまた、素直じゃないんだから」


だって来ることが分かってたら、少し散らかった部屋を奇麗にしておく時間だって作ったし、ちょっと手の込んだ料理をふるまうこともできた。でも今回は突然だったし、彼をもてなす準備を、わたしはしていない。最近彼女らしいことしてないし、いつ臨也に嫌われても、ふられても仕方ないような気がしてくる。


「ねぇ、あみ、冬が始まるよ」
「え、もうとっくに始まってるでしょ?」
「俺は今日始まったんだと思ったんだけどなぁ」
「帰り道ではーってしたら息白かったよ」
「俺も帰りにそうやって帰ろうかな」
「・・・帰るの」
「しょんぼりした顔しないでよ」
「してないし」
「ツンデレが許されるのは二次元だけだよ」
「ツンデレじゃないし」
「黒毛和牛買ってきたからさ、すき焼きにしようよ」
「えーわたししゃぶしゃぶがいい」
「それじゃあ今日すき焼きして、明日焼き肉にしよう」
「しゃぶしゃぶ!」
「じゃあ明後日しゃぶしゃぶ」
「・・・三日いてくれるの?」
「いるよ」
「帰らない?」
「泊ってもいいなら」


臨也だいすきだーなんて思うのと同時くらいに彼は ああなんて俺の彼女はかわいいんだ!あみラブ! だなんて恥ずかしいことを口走りわたしを抱きしめてくるくると狭い部屋で回った。それはもう回った。ワルツとかマイムマイムとかでくるくる回る比じゃない。目が回るとすき焼き作れないよ、臨也くん。じゃあ休もうねなんてベッドへ連れて行ってくれるあたりかっこいいけど手は出さないでね今気持ち悪いから。

臨也の冷たい手がツツとわたしのお腹を撫でて、結構本気で殴った。痛がってたけど嬉しそうな顔をしていた臨也は実はMなんじゃないかと疑っている。

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テーマ「人外ファンタジー」
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