チャイムの音は聞こえなかったけど、真が帰ってきたのはなんとなくわかった。部屋の扉が開いて、紺色のマフラーをした真が入ってくる。キッチンに立ったまま真の方を向くと、真っ赤な鼻をした真がずびっと鼻を啜った。


「外寒かった?」
「寒くねェわけないだろ」
「そうだね」


わたしと目を合わせると真は首に巻いたマフラーに顔をうずめる。今日の晩御飯はシチューだ。寒い日に食べたくなるのはどうしてだろう。


「ご飯食べる?それともお風呂にする?」
「・・・晩御飯なに」
「シチューだけど」
「ふぅん」


どれどれ、なんて言いながら真はキッチンに来て、わたしが混ぜているお鍋を覗きこんだ。「へぇ、うまそうじゃん」なんて少し馬鹿にするようなことを言って。


「先食べる」
「わかった。じゃあ手、洗って来て」
「・・・」


わたしが言うと真はまじまじと自分の手を見つめた。何やってるんだろうと思いながら鍋をまた混ぜる。


「うひゃっ」


わたしが鍋の方を見た瞬間、あろうことか真は冷え冷えになった手をわたしの首に巻きつけた。真の長い指が優しくわたしの首を包むのだけれど、その冷たさと言ったらない。ずっと部屋にいたから温まっていたわたしの体は一気に冷めてしまう。


「真!」
「はっ、何だよその声」


くつくつと喉で笑いながら真は洗面所へ向かう。ああ、なんて意地悪な男なんだ。お皿持ってなくて良かった。もし持ってたら絶対わたし落として割ってしまっていた。


ああ、そういえば、わたしまだ言ってなかった。家に帰ってきたら、一番最初に言わなくちゃいけないこと。部屋に戻ってきた真に「おかえり」と言うと真は少し驚いた顔をした後にはにかみながら「ただいま」と言った。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -