携帯すぐ取り出して、部長に電話。携帯を持つわたしの手が震えている。プルルル、と数回のコールの後、プツッと電話が鳴って、『基山です』と聞こえた。


「もしもしっ 部長、木村 です」

『ただいま、電話に出ることができません』


(あ、留守電 だ)



残業かな、それともあの子とデートの最中だろうか。
そうだよね、わたし、彼女でもなんでもないんだもん。一方的にすきだっただけ。そんなわたしが頼っていい相手じゃないんだ。でもいざっていうときに、部長の顔が頭に浮かんだんだ。




「部長、最後のお願いです。たすけにきて」

苦しい思い、たくさんした。だからこれで最後にします。部長に頼るのは、これで最後にするから。どうか部長、わたしのお願い聞いてください。



フラッとコンビニ出て、怖いから遠回りだけど、大通り通って帰ろう、って思って、信号待ちしてた。
ああ、そう言えばここで部長とばったり会ったんだっけ。「木村」って、呼ばれて。呼ばれなかったら気付かなかったかも。わたしがコンビニの袋ぶら下げてたらさりげなく持ってくれたんだよね。このコンビニもよくお世話になったなあ。つまみとか、お酒とか、よく部長と買いに来たよなあ。

ふらふらーっと歩いて、もうすぐでマンションだ。でもわたしの足取りは重い。近くのバス停に座り込む。あ、ここのバス停は、部長がわたしを拾ってくれたバス停だ。「木村?」って。まさか拾ってくれるなんて思ってなくて、部長の心の広さに驚いたなあ。




「・・・木村?」

そうそう、こんな感じに呼ばれてた。


「・・・木村!」

わたしが怒られるときに呼ばれる声も、こんな感じだった。



「木村!!」


(あれぇ?)


「なにしてるの、このバカ!」


部長が、いた。




「部長、だ」

部長の姿が見えて、立ち上がったけど、安心してその場にへたり込んでしまった。そんなわたしを見た部長は駆け付けてくれて、わたしのおでこに触れた。「熱はない、風邪ではないんだな」と安心したように笑った。


「何をしてるの、こんなところで」
「ちょっとありまして、」
「驚いたよ、留守電聞いて」
「すみません」


立とうとしたけど足に力が入らなくて立てなくて、それを見かねた部長がおんぶをしてくれた。






「あの、部長」
「なに」
「その、さっき、男の人に おそわれ て」
「!! 大丈夫だった!?」
「あ、ハイ、まあ。逃げたんで」
「警察に通報とか」
「怪我とか、してないし、驚いて死にそうだったけど警察に通報するほどじゃあ、」
「それでも」
「大事にはしたくないです」
「そうか・・・」
「それで、部長には迷惑かもしれなかったけど、一番に部長の顔が頭に浮かんだから、」
「あぁ」
「最近、料理してなくて ごめんなさい」
「結構不便だったよ」
「う、すみません」
「様子がおかしかったから、何かあったんじゃないかと思ってたけど」
「ごめんなさい」
「悩みがあるなら言って」
「部長」
「なんだ」
「部長に彼女がいるの、知ってます」
「ん?」
「料理も、洗濯も、掃除もがんばるから、」
「え?」
「もうちょっとだけ、部長の家に置いておいてください」
「・・・」


部長は、フ と笑って、「前々から知っていたけど、君は想像力が豊かだな」と言った。



「恋人はいないよ」
「え?」
「それは君の勘違い」
「だだだって!あの広報のあの子は!?」
「あの時も誤解と言っただろ」
「え、そーですけど、よく二人でいるの見てたし、」
「あの日、あの子も先方に連れて行くことになってたんだ」
「嘘・・・」
「それに俺の好きな人は別にいる」
「う、じゃあわたし、 やっぱり出て行かないと ですか」
「その必要はないよ」
「なんでですか。わたし邪魔ものじゃないですか」
「俺の好きな人は君だからね」




「え?」

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