荷物をまとめ始める。わたしがここに荷物を持ってきたときは、部長も手伝ってくれたんだけど、今回はそれはない。だって、わたし部長を突き放したんだから。

荷物をまとめればぼたぼたと涙がこぼれて、ちょっとの間だけど愛着わいちゃったこの部屋にお別れすることが悲しくなった。なによりも、部長にさよならしなくちゃいけないことが、かなしい。でもしょうがない。部長には彼女がいて、わたしがいたら邪魔なんだもん。



前まではご飯食べ終わってもリビングで一緒に居て、喋っていたけど、今はご飯食べ終わったらすぐに部屋にこもることが多い。部長と一緒にいる時間はどんどん減っていった。


(わたしだけ特別 だなんて 浮かれていた)


早く、彼氏を作って、しあわあせになろう。元彼はあんなんだったけど、いいひと、いるはずなんだから。今日も合コン。頼むよ友達の友達。良い人連れて来ておくれ。新居を探し始めるのと同じくらいから、わたしは合コンにしょっちゅう参加するようになった。そこで いいな と思った人も、どこか部長と比べてしまって、上手く行かなかった。(わたし、もう一生恋愛できないかも)だって部長と比べるとみんなヘチマに見えてしまう。

はああ、と溜息をつきながら部屋を出ると、ちょうど部長も部屋から出てきて、「おはよう」と言われた。下手な作り笑いで「おはようございます」と返すと、部長はそのまま玄関へ向かった。わたしはキッチンへ行き、お皿を洗う。そう言えば最近、部長朝ご飯食べてないみたいだなあ。ちょっと部長のことが心配になったけど、部長を心配するのはわたしじゃなくてあの子なんだから。




・・・



夜遅く。もう日付が変わるころ。合コンでたくさんお酒飲んで、上機嫌になりながら帰宅路についていた。大通りでタクシー降りて、近道になる細い道を通って、マンションを目指す。


コツコツコツ

(ん?)

コツコツコツ

(んん?)


後ろから足音が聞こえる。誰かにつけられてるかもしれない。どうしよう。大通りから外れてるから人気がない。気のせいだ、気のせいだと言い聞かせ、後ろを振り向いたら、男がいた。いや、ただ、帰り道が一緒なんだろうと思って前を向き、また歩き出す。怖い。どうしよう。もう一度振り返ると、すぐ後ろに、いた。




!!!



口と腕を掴まれて、ものすごい力で、抑えつけられた。血の気が一気に引く。混乱して、状況が把握できなくて、ただただ怖かった。


「大人しくしろ、そうしたら痛い目には合わせん」

男が低い声で呟く。


やだやだやだやだやだ、こわいこわいこわいこわい、ころされる?やだやだやだやだ。
逃げなくちゃ、と思っているのに、頭の仲が真っ白で何も考えられない。わたしは気がつくと、ヒールで思いっきり、男の足を踏んで、男がひるんだ隙に急いでその場から走って逃げた。マンションから遠くなるとか、そんなのどうでもよくて、ただそこから逃げたくてしょうがなかった。後ろを振り返ると、男は追いかけて来ていなかった。


バクバクバク、と心臓がすごい音を立てて動いていた。大通りに出て、近くのコンビニに入る。怖かった、生きてて良かった。でも一人じゃ、いられない。コンビニから出られない。どうしよう。




パッと浮かんだのは、部長の顔だった。

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