見事に寝不足。貫徹なんていつぶりだ?







忘れられない








「おはようございます」


 ざわざわと騒がしい職場。どうしたんだろうと思いながらデスクまで行くと後輩が話しかけてきた。


「先輩聞きました?」
「なにが?」
「今週で一之瀬さん、アメリカに帰っちゃうらしいですよ!」


 ちょっと待って、わたし、そんなの聞いてない。昨日だって、一之瀬くんはそんなこと一言も言ってなかったし、いつもの小言メールにだって書いてなかった。


「・・ううん、知らなかった」
「そうなんですか?一之瀬さんと先輩、仲が良かったからとっくに知ってるかと思ってました」


 仲良かったかな。わたし、彼を突き放してばかりで、全然仲良くできてなかったと思うんだけどな。周りの人の目には、そう映っていたのかな。
 しばらくすると課長が一之瀬くんを連れて職場にやってきた。


「みんなも知っていると思うが、今週で一之瀬は派遣期間を終え、帰国することになった。世話になったな」


 お別れ会をしようという話になったけど、一之瀬くんはそれを断っていた。またたくさん飲まされるのが嫌だからだろう。


 昨日残業していたのは、今週で帰るから、仕事をきちんと終わらせて、引き継ぎもちゃんとするためだったのかもしれない。それに今日も残業している。わたしはまた待つことにした。だって腹立たしい。やっと気付いたのに、自分の気持ちに。うんざりするような奴を、好きになっちゃったって。


「・・・また俺を待ってたの?」
「悪い?」
「ストーカーか」
「違います、同僚です」
「うん、知ってる」


 今日は一言も喋ってなかった。どちらともなく避けていたような気がする。嫌味も小言メールもなかった。

 彼はへらっと笑い、「それじゃ、帰るか」と言った。わたしはふられた後だったけど、接してみたら意外と普通で、いつもみたいに嫌味を言われることもしばしばあった。だから、このときだけは普段通りでいられた。


「わたし、知らなかったよ」
「なにが?」
「アメリカ、帰るなんて」
「・・・派遣されたんだし、帰るのは当然だろ」


 そうだけど、あまりに急すぎる。



「馬鹿でガキで、ごめんな」
「え?」
「中学生の頃。アメリカ帰ることになって、一生会えなくなるかもって、すごい酷いことしたら、アミは俺を忘れないかな、なんて」
「うん」
「だけど、今回は忘れてくれ」


 また出会えたことも?また好きになったことも?全部、全部?
 それは無理かな。偶然、また会えたんだ。今度ばかりは逃したりしない。一之瀬くんが大人になったように、わたしも大人になったんだ。もうあの頃のわたしじゃない。


「忘れらんないよ」
「え?」
「だって すきだもん」


 自然とポロポロ涙が流れてきて、手でぬぐうけど止まらない。


「わたしも 酷いことしてごめんなさい」


 メール無視してごめんなさい。いつも冷たい態度とってごめんなさい。目も合わせられなくてごめんなさい。


「今度は わたしが待つから」



「わたしだって、しつこくなったんだから」


あの日の彼のように、笑っていられますように。


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