仕事で大きなミスをした。誰も来ない非常階段のところでひとしきり泣いて、腫れた目を隠すように濃いメイクをしてから職場に戻った。







急に優しくされても困る







 <何、泣いたの?>

 彼はこうしてわたしが返信しないことをわかっていながら、社内メールを送ってくる。今回ももちろんスルー。

 とにかく今は、ミスの分を取り返さなくちゃいけない。




・・・



「って気づいたら11時!」


 もう職場には誰もいなくなっていた。たぶんずっと前からわたしは一人で残業をしていたんだと思う。


「帰りたい、眠い。でも仕事終わんない・・・」


 早く家に帰ってシャワー浴びて、お酒が飲みたい。撮り溜めしたドラマも見たい。



「ひとりごと言うなんて年取ったな」
「・・・相変わらず嫌なこと言いますね、一之瀬くん」
「うん」
「仕事の邪魔しないでください」


 もうわたししか社には残ってないと思っていたのに、なぜか彼が職場にやって来た。普通に終業時間に帰っていた気がするんだけど。


「って言ってももう11時過ぎてるぞ?」
「まだ帰れない」
「・・・お前さ」
「なに?」
「頑張ってんの、わかるから。少しは周りに頼れよ」


 頼れるわけがない。だってこれはわたしがしたミスなんだから。わたしがやらないといけない。


「・・・俺に頼れよ」
「ん?なんか言った?」
「あ、イヤ、なんでも。はいこれ、差し入れ」
「前みたいに嫌味なものでしょう、どうせ」
「うん。コラーゲンとビタミンC」


(もらえるものだから、飲むけど)


「もう用事ないでしょ?帰ったらどうですか」
「ハイハイ、邪魔者は帰ります」


 バタン、と扉が閉まって、彼は出て行った。嫌味な差し入れを一気飲みし、作業に戻る。結局全部片付いたのは12時がすぎたころだった。



「終電ないし、タクチケ・・ないし、お金ないし」
「遅かったな」
「! なんでまだいるの?」


 ずいぶん前に出て行ったはずの彼が、出入り口のところにしゃがんでいた。足元には缶コーヒーがいくつかあって、ずっと待っていたようだ。


「夜道は危ないだろ?」
「一之瀬くんには関係ないです」
「心配くらいさせろよ」
「え?」
「タクシーならもう呼んだから」


(そんなこと言われても・・)どうしたらいいかわからず、ふくれっ面で「ありがとう」と言ったら「素直でよろしい」と笑われた。



 どきん

(いやいやいやいやドキンじゃないでしょうドキンじゃ!)


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