彼がこの職場に来て、一週間が過ぎた。人当たりの良い彼はすでに人気者。派遣されて来ただけあって、仕事もできる。ミスも笑顔で許し、だがしっかりと指導もできる。そんな彼の噂は瞬く間に社内に広まりを見せた。







嫌味な性格は相も変わらず







 彼と同じ職場にどんな地獄の日々が始まるのだろうとビクビクしていたが、今のところ何もない。いじめられることも、パシリにさせられることも、ボロクソ言われることもない。平和だ。極力近づかないようにはしているからかもしれない。

 資料を作成していると、一通の社内メールが届いた。


 <肌荒れてるね>


 こんなことを送ってくる人は、一人しか思いつかない。彼の方を向くと、それはそれは嬉しそうに笑っていた。誰のせいで荒れたと思ってるんだ。
 わたしが昔付き合っていた人だってこと、確信している。それなのに知らんぷりをしているわたしが気に食わないのか。


 初めに好きになったのはわたし。さわやかで優しいところに惹かれて好きになり、玉砕覚悟で告白したらまさかのオーケー。
 付き合いだしたら彼は豹変した。みんなの前じゃ爽やかで優しい彼氏。二人きりになると小悪魔な彼氏だ。いじわるすることが好きで、何度泣かされたことか。小さないじめから大きないじめまで。時にはパシリ。時には嫌味。それでも好きだからと耐えぬいた。なのに「俺アメリカ帰るんだ。良い暇つぶしになったよ」と彼は告げ、スタコラサッサとこの国からいなくなった。

 わたしと付き合っていたことは単に暇つぶしの一つでしかなく、いじめはその一環だったわけだ。好きすぎて馬鹿みたい。遊ばれてることに早く気がついて早く別れちゃえばよかったのに。


(今は私を好きでなくても、いつか好きになってくれる)


 馬鹿正直に、そんなこと信じてた。









「まだいたの、木村」


 残業開始から4時間。なぜか一之瀬くんがやってきた。


「・・・はあ」
「なにその溜息。仮にも元彼だよ?俺」
「だから知りませんって」
「昼に送った社内メールも無視しちゃって」
「当たり前じゃないですか。変なことに社内メール使わないでください」
「だって俺、木村の携帯のアドレスも番号も知らないし」
「(教えたくないし)」
「まーコレでも飲んで頑張ってよ」
「?」


 ガサ、とコンビニの袋を机に置かれ、戸惑ってしまう。今までこんな風に優しくしてもらったことはないから。


「アリガトウゴザイマス」


 もらえるものはもらっておく主義。なにやら二本くらい入っているようだ。ゴソゴソと一本ずつ取り出す。


「・・・コラーゲン?」

「・・・ヒアルロン酸?」

「嫌味?」


 そして彼は嬉しそうに笑いながら職場を出て行った。最悪だ。


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -