「ということで、アメリカ本社から派遣されてきた一之瀬一哉くんだ」

 どうかどうか、別人でありますように。

「初めまして、一之瀬一哉です。日本には中学生のころ少しだけ住んでました。分からないことが多くありますが、どうぞよろしくお願いします」

 どうかどうか、真っ赤な他人でありますように。

「それじゃあ世話係を――・・木村」


(課長、そりゃないですよ・・・)
 もしわたしの知ってる一之瀬一哉であっても、どうかどうか、わたしのことはきれいさっぱり忘れていますように。


「木村、よろしく頼むぞ」
「はい・・・」







できれば出会いたくなかった







「初めまして、一之瀬一哉です」
「あ、はじめまして・・木村アミです」

 手を差し出されたので握手をした。彼はさわやかに笑っているけど、わたしの笑顔は相当引きつっているだろう。

「じゃ、じゃあ社内を案内しますので、ついて来てください」
「はい。よろしくお願いします」
 廊下に出て、彼は言葉通り豹変した。


「初めましてじゃ、ないよね?」
「なっなんのことでしょうか」
「あれ?忘れちゃった?」

 いや、覚えている。忘れたくとも忘れられずに記憶に残ってる。できれば別人であってほしかった。わたしの記憶の奥底にいるあの人と、別人であってほしかった。

「中学二年生の時、俺と付き合ってなかった?」
「知りません。人違いじゃないですか?」
「んー、確かに君だと思ったんだけど」

 しらを切ろうと知らんぷりをしているが、彼の言っていることは事実だ。確かにわたしは彼とお付き合いをしていた。もう10年も昔の話。


 偶然とは怖いものだ。彼とまた出会うことになるとは。できれば二度と会いたくなかった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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