「木村」
「ん?何?」
「仕事もう終る?」
「うん、もう終わらせようと思ってるとこ」
「じゃあ、一緒にメシでも行かない?」
「行く行くー!」







..............fin?








 一之瀬くんが異動でやってきてから、早いものでもう一カ月が経とうとしていた。初めは職場に内緒でお付き合いをしていたが、今じゃオープンな関係だ。隠れてこそこそするのは性に合わない彼が急にベタベタしてきたのだ。言わずもがな彼は人気があって、女性社員でも彼を狙っていた人は多い。女とゆーのは怖い生き物で、陰湿な嫌がらせを恐怖していたが、そんな目に遭うことはなかった。(いやーよかったよかった)

 彼と行くご飯は大抵居酒屋か焼き鳥屋くらいのもので、お互い愚痴を言い合ったり、どうでもいい話で馬鹿笑いをしたりする。そこで知った事実がある。


 彼がわたしをふったのは、派遣期間が終了することになり(これは彼にとっても急な話だったらしい)、帰らなくちゃならなくなったから。帰ってしまったらいつまた日本に来られるかわからない。そんな中、わたしを待たせられないと思い、ならいっそ付き合わないほうがいいと、わたしをふったのだ。でも結局、わたしを好きでいることがやめられなくて「待ってて」なんて言っちゃったらしい。


(いまさらだけど、わたし、とっても愛されてるんだな)


 そしてアメリカに帰って、何度も異動願を出し、日本に来たと。ビールで顔を赤くした一之瀬くんがふてくされながら喋るもんだからその時は笑っちゃったけど、本当はとっても嬉しかったんだよ。



「アミ、こっち」
「え?いつもの焼き鳥屋じゃないの?」
「うん」


 くい、と手をひかれ、彼のちょっと後ろをついて歩く。いつもの焼き鳥屋も、いつもの居酒屋も通り過ぎて、来たことのない綺麗なフレンチレストランにたどりついた。


「みだしなみは・・・オッケ。よし、行くぞ」
「え!?ココ!?」


 内装もとっても綺麗で、お洒落で、入ったことのないお店だった。席はもうすでに一杯。わたしたちはボーイに案内されるまま席まで行った。


(ここ、一番いい席なんじゃないの?)
(なんか食べに来てる人みんな高そうな服着てるし)
(わたし、場違いな気が・・・)


 目の前には普段見たこともないような彼がいる。緊張しているみたいでカチンコチンだ。可笑しくて笑うのを我慢していると「笑うなよ」と怒られた。オーダーをしたわけでもないのに次々と料理が運ばれて来た。見た目もきれいだけどとっても美味しい。食べ慣れていないし、マナーなんてきっと間違った風に覚えているけど、本当に美味しかった。残すところデザートだけになった時、ずっと黙り込んでいた彼が口を開いた。


「アミ」
「なに?」
「今までいっぱい迷惑かけてごめんなさい」
「へ?(別れ話か何かですか)」
「これからもいっぱい迷惑をかけるのだろうけど、僕の迷惑はアミしか受け止められる人はいないので」
「うん?」
「ずっとそばにいてください」
「うん」
「結婚しよう」
「・・・はい」


 ああ、そうか。そうだったんだ。
 絶対来ないようなところに食事に来たのって、わたしにプロポーズするためだったんだ。カチンコチンに緊張してたのは、お店の雰囲気にのまれたんじゃなくて、プロポーズするんで、緊張してたんだな。なんて可愛い人。




 だめだ、嬉しすぎる。


「泣くなよっ、ホラ!デザートもうすぐ来るから!」
「・・・うん」


 意地悪で、少しひねくれてる君だけど、わたし君と二人じゃなきゃ幸せになれないと思うんだ。


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