秋も更けて、冬が近づいてきました。







偶然という名の奇跡より
愛をこめて







 あの日、彼を見送ってから、わたしはより一層仕事に打ち込むようになった。残業もいっぱいしてるし、仕事もたくさんしてるし、前以上に仕事を任されるようになった。忙しい毎日を送っている。
 彼からは特に連絡が来たことはない。(今頃何してるんだろ)なんて考えながら、今日も日付が変わるまで残業していた。




・・・



「遅刻!」


 また残業のしすぎで寝坊してしまった。走っていけばギリギリ間に合う・・・いや、無理っぽい。頑張りすぎなよ、と言われたことを思い出す。でも忙しくしないと、一之瀬くんのこと考えちゃうから。そしたら、辛いから。



「すみません、遅刻しまし・・・・・え?」
「遅いぞ木村」
「また寝坊?」

「い、一之瀬、くん?」
「うん。ただいま」


 数か月前と同じような光景。あの時は偶然を、神様を恨んだけど、今はもう、そうじゃない。


「おかえりなさい」


 涙がこぼれそうだけど、満面の笑みで。












「き、気持ち悪・・・」
「あんなに飲むからだろ」
「うん。ちょっとうかれた」


 今日は彼の歓迎会。主役は彼。幹事はわたしではなく、後輩。だから今日は思い切り飲めると、飲みすぎてしまった。前はわたしが彼を介抱したけど、今日はわたしがされる側だ。みんなは三次会に行ったけど、わたしと彼はこっそり抜け出してきた。

 今度は派遣ではなく、異動できたのだと彼は言った。どんな手を使ってここに異動が決まったかは分からないが、これでしばらくは一緒に働ける。それを喜んだら飲みすぎた・・・。


「今回の歓迎会は、あんま飲まなかったみたいだね」
「まあな。学習した」
「うん」
「なーアミ」
「ん?」
「抱きしめていい?」
「フフ、お酒臭いわたしでよかったら」


 「ハハ」と彼は笑って、うすぐらい道のど真ん中でわたしを抱きしめた。またあの、おひさまのにおい。


「浮気してないだろうな」
「してないけど・・・わたしたち付き合ってるんだっけ?」
「さあ、どうだっけ」
「じゃあ浮気どうのこうのっておかしくない?」
「俺は嫉妬深いぞ」
「むしろ浮気しそうなのは一之瀬くんの方じゃん」
「一途だよ、俺」
「信じらんない」
「だって俺、中学のころから今までずっとお前のことが好きだったわけだし」
「嘘!信じられない!」
「力いっぱい否定するね」
「うん」



 中学生のころ、越えられなかった壁を越えてみようか。




「好きだよ」
「うん。わたしも大好き」


 思いっきり抱きしめて、静かにキスをした。


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テーマ「人外ファンタジー」
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